no title - 90


キラは女の子です


「殴りたいなら、別にかまいやしませんけどねっ」



アスランに叩かれ、シンは睨み返す。

カーペンタリア基地で補給後、ミネルバはスエズへと向かっていた。

その途中、連合軍に襲われたのである。

かつてアーモリーワンで奪取された3機のモビルスーツを含む敵に、ミネルバは苦戦した。

だがなんとか撃退し、建設中の連合軍基地を発見する。

そこでシンのインパルスが、既に反撃の力を持たないその基地を破壊したのだ。

アスランの、制止を振り切って。



「けど、俺は間違ったことはしてませんよっ。

 あそこの人達だって、あれで助かったんだっ」



パシッと、再びシンの頬が鳴った。



「戦争はヒーローごっこじゃない。

 自分だけで勝手な判断をするな。

 力を持つ者なら、その力を自覚しろ」



***



海底に身を潜ませたアークエンジェルの艦橋は静まり返っている。

いや、音はしていた。

音楽と、歌。

刻々と変わる世界の情勢を知るための情報網に引っかかった映像だ。

眩いスポットライトに照らされたステージで、華やかな音楽をバックに1人の少女が歌い踊っている。

静かなのは、その映像を見上げる人々の方だった。

皆の表情には、呆れと驚きとが錯綜している。



「・・・これが、ラクス・クライン」

「に、見えるんですか?」

「み、見掛けは確かによく似てますけど・・・」



各自、動揺を隠せないまま感想を口にした。

と、彼らが揃ってゆっくりと首を巡らす。



「ラ、ラクス?」

「なんですか、キラ?」



代表して、というようにキラが呼びかけると、ラクスはにっこりと微笑んでみせた。

怖い。

キラだけでなく、その場の誰もが思った。



「え・・・と、その。

 怒ってる?」

「私が?

 そう見えまして?」

「み・・・見えなくも、無い、かな、って」

「ふふ。

 もちろん、怒ってましてよ」

「そ、そうよね、うん。

 勝手に、名前を使われてたら」

「あら、そうではございませんわ」

「え!?」



意外な返事に、キラの声が裏返る。

目をぱちくりさせている彼女に、ラクスは笑みを消して答えを返した。



「私は、アスランの不甲斐なさに呆れておりますのよ」

「ア、アスラン?」

「ええ。

 1人で勝手にザフトに復隊した上に、このようなことを認めるなんて、と」

「あ、だけど・・・アスランも黙っているってだけで。

 もう会うこともないって」

「おそらく、そう簡単にはいかないと思います」



きっぱりと言い切るラクスに、キラは首を傾げる。

しかしラクスは、さらにとんでもないことを言い出した。



「デュランダル議長という方は、本当に戦争を止める気があるのでしょうか?」

「俺も同感だな」

「バルトフェルドさん・・・」

「そうね」

「マリューさんまで・・・」

「キラさんも、聞いたでしょう。

 あのラクスさんの偽者・・・の言葉。

 あれは、決して言葉通りの意味ではないわ」

「だな。

 戦え、と。

 平和の歌姫ラクス・クラインなら、決して言わない言葉だ。

 キラは、知らないだろうけどな。

 その彼女が戦うことを支持したということは、プラント市民への影響は絶大だぞ」

「そんな・・・。

 アスランはそんなこと」

「奴は、ギルバート・デュランダルと対面したんだろう?

 相手は最高評議会議長にまでなった、政治家だ。

 18歳の少年を丸め込むことなど、簡単だろうよ」

「それじゃあ、アスランは利用されているんですか!?」

「それはわからん」

「バルトフェルドさん!」

「わからんよ、俺にも」

「そうですわね。

 現時点では、情報も少ないですし。

 議長の真意を測るには、慎重な見極めが必要です」



キラは、彼らの人を見る目を信用している。

その彼らが、揃ってデュランダルを怪しんでいるのだ。

アスランはその議長から、フェイスという特別の地位を与えられている。

キラの胸に、言いようの無い不安が渦巻き始めた。



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