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キラは女の子です | ||
「フリーダムのパイロットを知って、どうする?」 アスランは、再び問い掛ける。 「インパルスで飛んでいって、殺すつもりか?」 「・・・俺の勝手だろう!」 生身の人間を撃つモビルスーツの姿が脳裏をよぎり、一瞬、シンは言葉に詰まった。 そんなことは、想像したこともない。 今までシンにとって、相手は常にフリーダムの姿をしていた。 わずかに怯んだ様子を見せた彼に、アスランはさらに畳み掛ける。 「恨みに思うのは、君の勝手だ。 だが、私怨で戦うのは、いたずらに戦禍を広げる。 ・・・君のように、家族を戦争に奪われる者を増やすだろう」 「・・・っ」 シンに、言われたことが理解しきれたわけではなかった。 けれど・・・。 「だからって、許せるかよ!? マユを・・・、父さんや母さんを殺した相手を、許せとでも言うのか!?」 「・・・頭を冷やせ」 「なぜ、庇うんだ!? ・・・まさか」 叫んで、ふと、シンの表情が変わる。 怒りの表情から、戸惑いの表情へ。 とある可能性が頭に浮かんだのだ。 否。 それはずっと頭の片隅にあった。 ただ、自分ですぐに打ち消していた、可能性。 「キラ、なのか?」 「・・・」 「おい、答えろよ・・・。 否定、しないのかよ・・・」 「俺は、否定も肯定もしない。 答える必要性を感じないからな」 身を翻すアスランを、シンは悄然とした様子で見送る。 混乱、していた。 思考が渦を巻き、感情が波打っている。 キラ、なのか? *** これで、シンはどう出るか・・・。 アスランは、敢えて否定しなかった。 もとより、嘘を言うつもりはない。 今も昔も、フリーダムのパイロットはキラだ。 シンが仇とする対象はキラで、キラもそれを知っている。 彼女に話させないようにしたのは、誤魔化すためではなかった。 キラの身を守る。 アスランにとっては、それが最優先事項だ。 答えを得たシンは、キラを傷つけるだろう。 身体的にか、精神的にか、・・・両方か。 それを避けるための処置だった。 だが一方、アスランはシンが愚かではないとも思っている。 ただ、今の彼は視野が狭いのだ。 だからこそ、考える時間を与える必要がある。 ・・・キラ。 少し、待っていてくれよ。 キラの、泣き顔が浮かんだ。 次にシンと顔を合わせる前に、この件に決着をつけたい。 キラが泣かずに済むように、と。 だが今このとき、その大切な少女が涙を流していることを、アスランは知らなかった。 *** 「アスランの、言うことはわかる。 だけど、・・・だけどっ」 キラが怖いのは、未来が見えないこと。 キラはアークエンジェルにいて、アスランはザフト軍の戦艦にいるのだ。 これではまるで、過去の再現のようである。 あの時と状況が違うとわかってはいた。 敵、ではない。 だが、味方でもないのだ。 世界はまた、戦争を始めてしまっている。 「キラ・・・、ミネルバに、戻りますか?」 「ラクス!?」 「プラントもザフト軍も、あなたに危険が無いとは言えない場所です。 ですが、アスランがいるならば。 そしてキラ。 あなた自身が望むならば、それを選択することも出来るでしょう」 「・・・ラクス」 「アスランにも、困ったものですわね」 「あ、だけど、アスランも考えて」 「そして、キラを泣かせますのね」 「そ、それは・・・っ。 ・・・アスランの傍にいたいよ。 でも、私は行かない」 ラクスの提案に心揺れたキラだったが、しっかりと首を横に振った。 「私は、今度こそ自分で見定めないといけないと思う。 周りに流されずに」 *** next |
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