no title - 89


キラは女の子です


「フリーダムのパイロットを知って、どうする?」



アスランは、再び問い掛ける。



「インパルスで飛んでいって、殺すつもりか?」

「・・・俺の勝手だろう!」



生身の人間を撃つモビルスーツの姿が脳裏をよぎり、一瞬、シンは言葉に詰まった。

そんなことは、想像したこともない。

今までシンにとって、相手は常にフリーダムの姿をしていた。

わずかに怯んだ様子を見せた彼に、アスランはさらに畳み掛ける。



「恨みに思うのは、君の勝手だ。

 だが、私怨で戦うのは、いたずらに戦禍を広げる。

 ・・・君のように、家族を戦争に奪われる者を増やすだろう」

「・・・っ」



シンに、言われたことが理解しきれたわけではなかった。

けれど・・・。



「だからって、許せるかよ!?

 マユを・・・、父さんや母さんを殺した相手を、許せとでも言うのか!?」

「・・・頭を冷やせ」

「なぜ、庇うんだ!?

 ・・・まさか」

 

叫んで、ふと、シンの表情が変わる。

怒りの表情から、戸惑いの表情へ。

とある可能性が頭に浮かんだのだ。

否。

それはずっと頭の片隅にあった。

ただ、自分ですぐに打ち消していた、可能性。



「キラ、なのか?」

「・・・」

「おい、答えろよ・・・。

 否定、しないのかよ・・・」

「俺は、否定も肯定もしない。

 答える必要性を感じないからな」



身を翻すアスランを、シンは悄然とした様子で見送る。

混乱、していた。

思考が渦を巻き、感情が波打っている。



キラ、なのか?



***



これで、シンはどう出るか・・・。



アスランは、敢えて否定しなかった。

もとより、嘘を言うつもりはない。

今も昔も、フリーダムのパイロットはキラだ。

シンが仇とする対象はキラで、キラもそれを知っている。

彼女に話させないようにしたのは、誤魔化すためではなかった。

キラの身を守る。

アスランにとっては、それが最優先事項だ。

答えを得たシンは、キラを傷つけるだろう。

身体的にか、精神的にか、・・・両方か。

それを避けるための処置だった。

だが一方、アスランはシンが愚かではないとも思っている。

ただ、今の彼は視野が狭いのだ。

だからこそ、考える時間を与える必要がある。



・・・キラ。

少し、待っていてくれよ。



キラの、泣き顔が浮かんだ。

次にシンと顔を合わせる前に、この件に決着をつけたい。

キラが泣かずに済むように、と。

だが今このとき、その大切な少女が涙を流していることを、アスランは知らなかった。



***



「アスランの、言うことはわかる。

 だけど、・・・だけどっ」



キラが怖いのは、未来が見えないこと。

キラはアークエンジェルにいて、アスランはザフト軍の戦艦にいるのだ。

これではまるで、過去の再現のようである。

あの時と状況が違うとわかってはいた。

敵、ではない。

だが、味方でもないのだ。

世界はまた、戦争を始めてしまっている。



「キラ・・・、ミネルバに、戻りますか?」

「ラクス!?」

「プラントもザフト軍も、あなたに危険が無いとは言えない場所です。

 ですが、アスランがいるならば。

 そしてキラ。

 あなた自身が望むならば、それを選択することも出来るでしょう」

「・・・ラクス」

「アスランにも、困ったものですわね」

「あ、だけど、アスランも考えて」

「そして、キラを泣かせますのね」

「そ、それは・・・っ。

 ・・・アスランの傍にいたいよ。

 でも、私は行かない」



ラクスの提案に心揺れたキラだったが、しっかりと首を横に振った。



「私は、今度こそ自分で見定めないといけないと思う。

 周りに流されずに」



*** next

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