no title - 88


キラは女の子です


「メイリン!」

「シン・・・」



駆け寄ってくるシンの浮かべた怒りの表情に、メイリンは思わず回れ右をしたくなる。

別に後ろめたいことがあるわけでもないのだが。



「な、なぁに?

 どうか、した?」

「あの人は!?」

「えぇとぉ・・・、誰?」

「キラのことだっ。

 フリーダムが無いんだっ。

 メイリンなら、知ってるだろう!?」



確かに、知っている。

だがそれをなぜシンが怒るのか、メイリンには見当もつかなかった。



「あ、だって、ねぇ。

 昨日、帰るって言っていたんでしょう?」

「予定を変えたはずだろう!?」

「・・・って、私に言われても。

 副長はいいって言ったから・・・」



本当のことなのだが、シンの勢いに負け、まるで言い訳のような口調になってしまう。



「じゃあ、やっぱりもう出て行ったのか!?」

「う、うん、そう。

 少し前に。

 オーブの方へ飛んでいったけど・・・」



シンはそれ以上、聞いていなかった。

ちくしょうっ、と罵るように呟き、身を翻してどこかへ駆けていってしまう。

残されたメイリンは、呆然と立ち尽くして見送った。



***



出てっただって?

まだ、答えを聞いてないっ。

逃げないって、言ったくせにっ。



「!」

「・・・っと」



怒りのまま走っていたシンは、周囲への注意を怠っていたようである。

脇から出てきた人影にぶつかりそうになってしまった。

幸い、相手が身をかわしてくれ、事なきを得る。



「気をつけろよ」

「すみま・・・、あんたっ」



自分が悪い自覚はあったシンなので素直に謝罪を口にしかけ、しかし相手が誰かに気付いてその胸倉を掴んだ。

いや、掴んだつもりなのだが、気付けばシンは投げ飛ばされている。

床に四肢を伸ばすシンを、アスランが見下ろした。



「シン?

 手加減したつもりだが、大丈夫か?」

「な、なにするんだ!?」

「それは、こっちのセリフだろう。

 いきなり、人に掴みかかろうとして」



身を起こしたシンは、もっともな言葉に、ぐっと詰まる。

そして差し出された手を無視して、立ち上がった。



「艦内を、あんなスピードで走るもんじゃない」

「いいだろ、別に」

「よくない。

 ぶつかれば、双方怪我をする危険がある」

「うるさいっ。

 そんなこと、わかってるっ」

「・・・まぁ、今後は気をつけてくれ」



子供のように反発するシンの様子に、アスランは内心で苦笑する。

しかしそれを表に出すことなく、行き過ぎようとした。

だがシンが、言葉で止める。



「待てよっ」

「急いでいるんだろう?」

「俺は、あんたに用があるんだっ」

「俺に?

 ・・・なるほど」



アスランは、シンのこの行いの原因に思い至った。



「キラを帰したのが気に入らないか」

「俺との話が済んでいなかったんだっ」

「ああ、聞いてるよ。

 フリーダムの、パイロットについてだろう?」

「そうだっ。

 あんたも、知ってるんだよな?

 代わりに、答えろよっ」

「知って、どうする?

 復讐でもするつもりか?」

「・・・それは」

「もしそうなら。

 君は軍を辞めるべきだな」

「なんだと!?」



激昂して、シンはアスランを睨む。

だがアスランも、より厳しい目でシンを見つめていた。



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