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キラは女の子です | ||
「ラクス・・・」 医務室に足を踏み入れたキラに、横たわっていたラクスが身を起こす。 「キラっ」 嬉しげな笑みで、キラを迎えてくれた。 そのままベットから立ち上がろうとするラクスに、キラは慌てて駆け寄る。 「大丈夫なの、ラクス?」 「なんともないですわ。 皆様にご心配をお掛けしてしまうので、休ませていただいただけですの」 「本当に? ・・・よかった」 にこやかなまま頷く彼女を見て、キラもほっとしたように息を吐いた。 そんな2人に、不意に声が掛かる。 「どうせだから、キラさんもここにいなさいな」 「マリューさん?」 「ラクスさん、少し気を失っていたのよ。 まだ休んでいた方がいいわ。 キラさんは彼女を見張っていてね」 じゃあ、と軽く手を上げて、返事も聞かずにマリューは出て行ってしまった。 キラは戸惑ったように彼女を見送り、困ったようにラクスを見る。 同じようにマリューのいた方を見ていたラクスが、キラの視線に気付いたように顔を向けてきた。 「と、いうことらしいですわね」 「・・・って?」 「キラも休め、ということです。 お怪我は無いようですが、疲れたお顔をしていらっしゃいますわよ。 私も1人では寂しいですもの。 ・・・ずっと、子供達と一緒でしたものね」 「そう・・・か、・・・そうよね。 しばらく、あの子達とも会えないんだ」 呟きながら、キラはオーブがあるだろう方向を見やる。 黙ってその横顔を見ていたラクスは、ゆっくりと立ち上がった。 気付いて止めようとするキラの手をすり抜ける。 「お茶を飲みましょう。 おしゃべりをしたいですわ」 「でもラクス。 寝てなくちゃ・・・」 「もう十分、休ませていただきましたわ。 それより、キラとお話していたいんですの」 ふふふ、と楽しそうに笑うラクスには、キラも敵わなかった。 ため息を1つ吐き、ラクスがいたのとは反対側のベットに腰掛ける。 そのキラに、ラクスは湯気の立ち上るカップを差し出した。 「ありがとう。 ・・・あれ、これ・・・?」 「そう、緑茶ですわ。 さすがに、専用のカップはありませんけど。 ヤマト家では、よく飲んでいたのでしょう?」 「・・・うん、昔。 そっか、そんな話もしたよね」 「艦内の給湯施設すべてに完備されているそうです。 他にもいろいろあって、嬉しいですわね」 「うん。 うん、・・・うん」 「キラ・・・」 ポロリと、キラの瞳から雫が零れる。 カップを持った両手が、微かに震えていた。 「ダメ・・・だな、私。 昔に、戻りたいって思ってしまう」 「キラが戻りたいのは、月にいた頃ですか?」 「お父さんとお母さんと。 それから、アスランが傍にいるのが当たり前だった・・・」 「ですけど、私はそこにおりませんわ」 「!」 「戦争が起きて、哀しいことがたくさんありました。 別れがあり、失われたものがある。 でも、出会いもまた、あったのです」 「ラクス・・・」 「時を戻すことは、誰にもできません。 ですが、未来を作ることはできます。 そのために、キラは再び、剣を持ったのでしょう?」 こくりと、キラが頷く。 だがそのまま、俯いてしまった。 「でも、アスランがいないの」 「・・・そうですね。 プラントにも、オーブの状況は伝わっているでしょうし。 そう遠からず、きっと」 「来ないの。 アスランは来ないのよ、ラクス」 強い口調でキラはラクスを遮り、首を横に振る。 「連絡が、ついたんですの?」 「会った。 アスランと、会ったの、・・・ミネルバで」 「な・・・!?」 「プラントから、降りてきたの。 赤いモビルスーツで。 ザフトの、制服を着て・・・」 堪えきれなくなり、キラはとうとうしゃくりあげるように泣き出した。 *** next |
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