no title - 87


キラは女の子です


「ラクス・・・」



医務室に足を踏み入れたキラに、横たわっていたラクスが身を起こす。



「キラっ」



嬉しげな笑みで、キラを迎えてくれた。

そのままベットから立ち上がろうとするラクスに、キラは慌てて駆け寄る。



「大丈夫なの、ラクス?」

「なんともないですわ。

 皆様にご心配をお掛けしてしまうので、休ませていただいただけですの」

「本当に?

 ・・・よかった」



にこやかなまま頷く彼女を見て、キラもほっとしたように息を吐いた。

そんな2人に、不意に声が掛かる。



「どうせだから、キラさんもここにいなさいな」

「マリューさん?」

「ラクスさん、少し気を失っていたのよ。

 まだ休んでいた方がいいわ。

 キラさんは彼女を見張っていてね」



じゃあ、と軽く手を上げて、返事も聞かずにマリューは出て行ってしまった。

キラは戸惑ったように彼女を見送り、困ったようにラクスを見る。

同じようにマリューのいた方を見ていたラクスが、キラの視線に気付いたように顔を向けてきた。



「と、いうことらしいですわね」

「・・・って?」

「キラも休め、ということです。

 お怪我は無いようですが、疲れたお顔をしていらっしゃいますわよ。

 私も1人では寂しいですもの。

 ・・・ずっと、子供達と一緒でしたものね」

「そう・・・か、・・・そうよね。

 しばらく、あの子達とも会えないんだ」



呟きながら、キラはオーブがあるだろう方向を見やる。

黙ってその横顔を見ていたラクスは、ゆっくりと立ち上がった。

気付いて止めようとするキラの手をすり抜ける。



「お茶を飲みましょう。

 おしゃべりをしたいですわ」

「でもラクス。

 寝てなくちゃ・・・」

「もう十分、休ませていただきましたわ。

 それより、キラとお話していたいんですの」



ふふふ、と楽しそうに笑うラクスには、キラも敵わなかった。

ため息を1つ吐き、ラクスがいたのとは反対側のベットに腰掛ける。

そのキラに、ラクスは湯気の立ち上るカップを差し出した。



「ありがとう。

 ・・・あれ、これ・・・?」

「そう、緑茶ですわ。

 さすがに、専用のカップはありませんけど。

 ヤマト家では、よく飲んでいたのでしょう?」

「・・・うん、昔。

 そっか、そんな話もしたよね」

「艦内の給湯施設すべてに完備されているそうです。

 他にもいろいろあって、嬉しいですわね」

「うん。

 うん、・・・うん」

「キラ・・・」



ポロリと、キラの瞳から雫が零れる。

カップを持った両手が、微かに震えていた。



「ダメ・・・だな、私。

 昔に、戻りたいって思ってしまう」

「キラが戻りたいのは、月にいた頃ですか?」

「お父さんとお母さんと。

 それから、アスランが傍にいるのが当たり前だった・・・」

「ですけど、私はそこにおりませんわ」

「!」

「戦争が起きて、哀しいことがたくさんありました。

 別れがあり、失われたものがある。

 でも、出会いもまた、あったのです」

「ラクス・・・」

「時を戻すことは、誰にもできません。

 ですが、未来を作ることはできます。

 そのために、キラは再び、剣を持ったのでしょう?」



こくりと、キラが頷く。

だがそのまま、俯いてしまった。



「でも、アスランがいないの」

「・・・そうですね。

 プラントにも、オーブの状況は伝わっているでしょうし。

 そう遠からず、きっと」

「来ないの。

 アスランは来ないのよ、ラクス」



強い口調でキラはラクスを遮り、首を横に振る。



「連絡が、ついたんですの?」

「会った。

 アスランと、会ったの、・・・ミネルバで」

「な・・・!?」

「プラントから、降りてきたの。

 赤いモビルスーツで。

 ザフトの、制服を着て・・・」



堪えきれなくなり、キラはとうとうしゃくりあげるように泣き出した。



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