no title - 86


キラは女の子です


「お帰りなさい、キラさん」

「マリューさん・・・」



フリーダムから顔を出したキラを、マリューが出迎えている。

彼女の前に降り立ち、顔を上げた。

目を合わせたキラを見て、マリューの優しい笑顔が曇る。



「・・・疲れた?」

「あ、いえ。

 すみません、お待たせして」

「ううん。

 実は、そんなに待っていないのよ。

 ちょっと、出航前にゴタゴタしてて」

「なにがあったんですか?」

「いろいろと、ね。

 まぁ、それは後で話すわ。

 キラさんも話してくれるわね。

 その、顔のわけ」

「・・・顔?」

「迷子の、子犬みたいよ。

 大丈夫?」



強い決意で飛び出していったキラと、戻ってきたキラはまるで違っていた。

マリューの言うとおり、心細いような、泣きそうで泣けないような表情をしている。

まさにそんな気分でいたキラは、俯いてしまった。

そんな少女を、マリューはそっと抱きしめる。



「マ、マリューさん!?」

「たまには、お姉さんに甘えなさい。

 言いたくなかったら、言わなくてもいいわ。

 でも、口に出すと何かが変わるかもしれない。

 ・・・アスラン君だけじゃなくて、私にも頼って欲しいわ」

「・・・っ」



マリューは、腕の中のキラが身を強張らせるのに気付いた。



「キラさん?」

「あ・・・」

「うん?」

「・・・」



キラは、両手をそろそろと動かし、マリューの背にまわす。

そして、ぎゅっとしがみついた。



***



キラが落ち着くのを待って、2人は居住区へと向かう。

泣きも話もしないキラに、それ以上マリューは問い掛けなかった。



「キラさんの部屋は、前と同じでいいわね?」

「はい。

 そういえば、ラクスはどうしたんですか?」



いつもであれば、ラクスが一番に出迎えてくれる。

キラにとって、それが当たり前になっていた。

今ここにいないということは、彼女はオーブに残ったのだろうか?



「・・・ああ、ラクスさんは」



言いづらそうに、口ごもる。

だがちょっと間を置いて続けた。



「医務室で寝ているわ」

「え?

 病気・・・いえ、怪我ですか!?」



コーディネイターが病気にかかることはほとんどない。

だが、いつもゆったりと、優雅に動くラクスが怪我をする事態など、キラには想像がつかなかった。

しかしマリューは肯定する。



「どうして!?

 怪我は酷いんですか!?」

「落ち着いて、キラさん。

 ラクスさんは、大丈夫。

 怪我はしてないのよ。

 ただちょっと、転倒した時に頭を打ってしまって。

 安全をとって、医務室に押し込んだの。

 今さっきも、私と来るって言うのを止めさせたところ。

 だから、部屋に行く前に、医務室に行きましょうね」

「もちろんです。

 でも、ラクスはなんで、・・・どこで?」



それに対する答えは、キラの想像を絶するものだった。

マリュー達の暮らしていたあの家に、武装した集団が攻め入ってきたというのである。

それも明らかに、コーディネイターの集団が。

バルトフェルドは彼らをザフトの特殊部隊だと判じたという。



「ザフトが?

 なんで、・・・いったい誰を、何の目的で?」

「わからないわ。

 変な気配を感じて、すぐにシェルターに移動したの。

 途中、ちょっと銃撃戦になったりしたから、私もラクスさんを庇いきれなくて。

 あ、でも、子供達は全員無事よ。

 カリダさんも、マルキオ師も。

 ラクスさんは、・・・彼女は躓きそうになった子供を庇ったの」

「そんな・・・」



その後、アークエンジェルのある地下ドッグへ移動した。

そこで彼らを待っていたのは、あの家が爆発したという知らせ。

潜入と戦闘の証拠隠滅のためだろうと推測された。



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