no title - 85


キラは女の子です


「艦長・・・」



硬い表情のアーサーが、タリアを待っている。



「あら、アーサー」

「こんな、勝手をさせていいんですか?」

「・・・止められないでしょう。

 キラさんを基地に連れて行くわけにもいかないんだから。

 確かに、今のうちに出てってもらう方が騒ぎも無くていいわ」

「ですが・・・っ」

「アーサー」



反論を述べようとする副官を、タリアは名を呼ぶことで止めた。



「蒸し返すのはやめてちょうだい」

「なら、なぜ艦長はここにいるんですか?」

「・・・彼女のことはいいの。

 私が気になったのは、彼よ」

「アスラン・ザラ、ですか?

 彼が何か?」

「議長は本当に、どういうつもりなのかしらね・・・。

 彼が優秀なのは認めるけど。

 兵士としては、問題があるわ」

「そう・・・ですか?」



首を捻るアーサーに構わず、タリアは自室へと足を進める。

そんな彼女を見送り、アーサーは諦めたようにブリッジへと戻っていった。

タリアは気配でそれを察し、苦笑する。



兵士は上官の、軍の命令に従うものよ?

それが出来ないと堂々と言い切る人間を軍に戻してどうなるというの。

それになにより・・・。



アスランとキラの様子が、タリアの脳裏に浮かんだ。



いざという時、彼はキラさんを選ぶでしょう。

もしも彼女が敵として立った時、アスラン・ザラがどうするかなんて・・・。

考えるまでもないわ。

ありえないと彼は言ったし、私もそうあって欲しいと思うけれど。

こればかりは、ね・・・。



***



「彼らがどこにいるかは、わかるのか?」

「うん。

 ・・・ほら、ここ」



モニターに映し出された位置をキラが示した。



「もう、オーブの領海を出てる」

「連絡はつけたのか?」

「・・・やっぱり心配させてたみたい」

「じゃあ、もう行かないとな」

「アスラン」

「気をつけて、キラ」



言いながら、アスランが顔を寄せてくる。

キラはちょっと目を見開き、だがすぐに目を閉じた。

頬が熱くなるのと自覚する間もなく、唇に温もりを感じる。

触れるだけのキスをして、アスランがコックピットを出た。

瞼を上げたキラは、コックピットを下げ、ハッチを閉じる。

途端、全面のモニターが周囲を映し出した。

フリーダムの足元から離れていくアスランが見える。



「アスラン・・・」



今度は、敵対するわけじゃないのだ。

会えなくなるわけでもない。

わかっていても、イヤだった。

おそらく、わざとだろう。

背中を向けたまま振り返りもせずに去り行くその姿に、キラの目が潤みだした。

努めて目を逸らし、引き出したキーボードを叩く。

フリーダムから、ミネルバにアクセスし、外への扉を開いた。

艦橋では騒ぎになるかもしれないが、キラの知ったことではない。

他人に、気遣いのできる心境ではなかった。

もちろん、警報が鳴ってしまうようなミスはしない。



「アスラン」



外部スピーカーをONにしたキラの声が、格納庫に響いた。

さすがに振り向いたアスランの顔をじっと見つめる。



「またね」



アスランが頷くを見て、キラは未練を振り切ってフリーダムを飛び立たせた。



***



「副長!

 誰かがシステムに侵入しています!」



艦橋に、メイリンの緊迫した声が響く。

アーサーが慌てて席を立った。



「なにがあった!?」

「格納庫のハッチが開放されました!」

「・・・格納庫?」



何があったのか思い至ったアーサーは、力が抜けたようにシートに戻る。

いつもなら在り得ない反応にメイリンが訝った視線を向けるが、アーサーは疲れたように首を横に振った。



「いい、大丈夫だ。

 フリーダムが出ていくだけだろう。

 艦長も知ってるから、警報も出さなくていい」



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