no title - 84


キラは女の子です


「これが必要じゃなくて?」



格納庫に足を踏み入れた途端に響く声。

びくりと立ちすくむキラを庇うように、アスランが前に出た。

視線を上げれば、左上の通路から、タリア・グラディスが見下ろしている。

その手には白くて丸い・・・ヘルメットが掲げられていた。

目元を険しくするアスランに、タリアは苦笑を返す。



「警戒しないでちょうだいな」

「・・・」

「と、言っても無駄でしょうけど。

 持って行くから、待っていなさい」



身を翻す彼女に、アスランは眉を寄せた。



「アスラン・・・」



不安を滲ませた声と共に腕を掴まれ振り返り、潤んだ瞳に慌てる。



「・・・っ。

 キラ」

「どうしよう、アスラン」

「大丈夫・・・、大丈夫だ」



優しく抱き寄せられ、しばしの逡巡の後、キラは小さく頷いた。

いくらそう言われても安心できるものではなかったが、ここにはアスランがいる。

1人ではないのだ。

そのことは、キラを落ち着かせる。

だがすぐに今だけのことだと思い至ってしまい、気落ちさせた。



「キラ?」



キラが腕を突っ張るようにしてアスランから離れる。

唐突なそれに、当然のように問い掛けられて、キラは顔を逸らした。



「どうし」

「来たよ、タリアさんが」

「キラ・・・」



きゅっと唇を引き結んだ彼女に、アスランも諦めて近寄ってくるタリアに向き直る。

その背を見つめ、キラはまたも泣きそうになっていた。



また、アスランと離れなくちゃいけない。

アスランの気持ちはわかる、けど。

やっぱり・・・。



アスランの胸は、キラを心地よくさせる。

それを、思い出してしまった。

守るんだ、と。

そう心に誓って再び剣を手に取った彼女だが、常に矛盾を抱えている。

戦いの無い世界を望み、戦わねばならない矛盾。

しかし揺れる心を押し隠し、キラは立ち上がったのだ。

決めたはずのその意志が、崩れそうになる。

アスランがキラに、頼ることを思い出させた。

だが彼は、離れてしまう。

キラの傍にはいてくれないのだ。



***



「どうぞ」

「ありがとうございます、・・・わざわざ」



差し出されたそれを、硬い表情のアスランが受け取る。



「あなたも行くのかしら?」

「・・・いいえ」

「そうね。

 いくらなんでも、黙って、ということはしないわよね。

 でも、彼女も一言くらいあってもいいのじゃなくて?」



目だけで周囲を見渡すアスランに、タリアはため息を吐くように言葉を継いだ。



「・・・私1人よ。

 キラさんは、私たちを助けてくれた。

 それはわかってるし、早く戻りたい気持ちもわかっているわ。

 だけど、これはないでしょう」

「・・・失礼致しました。

 艦長を疑う気持ちはありません。

 ですが、乗員全てに問題が無いとは言い切れません。

 それも、おわかりでしょうが」

「シン、ね」

「・・・」

「私としては、どうせならケリをつけていって欲しいところだけど。

 うちのエースパイロットが使い物にならなくなったら困るわね」



それでなくても、落ち込んでいるのにね。

そう付け加えられて、キラはアスランの陰から出た。



「なぜ・・・?」

「決まってるでしょう。

 そう年の変わらないあなたに敵わないからよ。

 実際、私もあれほどとは思っていなかったわ。

 フリーダムとそのパイロットの力は想像以上だった。

 とても、そうは見えないのにね・・・」



結局、何がしたかったのか。

タリアはキラが再び口を開く前に、さっと踵を返してしまった。

引き止めるでなく、シンとの話を強要するでなく。

困惑するキラは、アスランに促されるままフリーダムに乗り込んだ。



*** next

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