no title - 83


キラは女の子です


「ん、これでいいわ。

 フリーダムの調整は後ですぐやるから。

 ね、アスラン、これね。

 憶えておいて」



モビルスーツ・セイバーのコックピットで、キラは横に立つアスランへモニターを指し示す。

続いて、またカタカタとキーボードを叩き、実際にやってみせた。



「コードはこれ。

 フリーダムとセイバーの専用ね。

 別の機体に乗せ替えても使えないから、気をつけて」

「ああ、・・・了解」



キラの指がまた動き、開いていたプログラムを次々と終了させていく。

それを見ながら、アスランが一足先にコックピットから抜け出た。

システムが終了し、暗くなったコックピットから、キラを引っ張り上げる。



「ありがとう」

「いや」

「・・・静かね」



キラは首を巡らし、格納庫を見渡した。

視界の中に、動くものは何も見えない。

既に、深夜を過ぎていた。

警戒レベルが下げられた艦内では、乗員の大半が休息している。

MSの整備士達は今もインパルスの修理をしているかもしれないが、こことは違う区画だ。

セイバーと並んでいるザクはもう修理が完了し、戦闘の痕は消えている。



「ほんとに、勝手に帰っていいの?」

「かまわないさ。

 本当なら、昼間に出て行くところだったんだろう?」

「そう・・・だけど。

 でも、私、話さなくちゃいけ」

「キラ」

「だって、アス」

「必要ない」

「アスラン・・・」



通信システムを構築しながら、キラはアスランにシンの話をしていた。

それを蒸し返す彼女の言葉を、アスランは強く遮る。



「話をしたところで、意味は無いと言っているだろう。

 彼は、自分のことしか見えていない。

 おそらく、どんな事情を話したところで、聞く耳を持たない」

「でも、だからって謝らなくていいわけないわ」

「今、謝罪することに、意味はない。

 少なくとも、今のシンにキラの心は届かないと、俺は思う。

 ・・・キラが傷つくことはない。

 俺が話して、落ち着いてからでいいんじゃないか?」

「・・・」



キラは、以前見たシンの、憎しみと怒りの表情を思い出した。

アスハ家がオーブを戦場にし、自分から家族を失わせた、と。

フリーダムのパイロットが殺した、と。

そこまで考えて、キラは唇を噛む。



「シンは、怖くないのかしら?

 私が彼にしたことを、今度は彼が誰かにすることになる」

「恐らく、そんなことは考えもしないんだろう。

 そもそも、そうでなくては戦場で戦えない。

 キラのフリーダムは特別だ。

 性能が上で、技術も上。

 力不足であがなうのは、自分と仲間の命だ」

「・・・技術。

 モビルスーツなんて、戦いにしか役に立たないのにね・・・」



望んで得た、能力ではなかった。

血の繋がった、顔も知らない父親が作り出したキラ。

彼の男は、彼女を最高のコーディネイターだと呼んだ。

キラの心が戦いを厭っても、守りたいものがある限り、そうしないではいられない。

それは、彼女に与えられた運命なのだろうか?



戦うために、生まれてきたみたい。

平凡に、生きることが許されないなんて・・・。



「・・・ラ?」

「!」

「大丈夫か、キラ?

 顔色が悪い」



広い格納庫から、いつの間にかパイロット待機室の前まで来ていた。

アスランの呼びかけにはっとしキラが彼を振り仰ぐと、心配げに顔を覗き込まれる。



「なんでも」

「ない、なんて言っても聞かない。

 どうした?」

「・・・ちょっと、うん、考え事。

 前の戦争の時のことを思い出してたの。

 もう、終わったはずだったのに、って」

「・・・そうか」



無理に微笑んで見せれば、アスランもぎこちなく頷いた。

納得していないのは明らかだったが、話したくないキラの意思を酌んでくれたのだろう。

そんな彼にもう一度微笑み、キラは1人で待機室へと入った。



***



「ヘルメットはどうした?」

「あ・・・、と、うん。

 無い・・・かな?」

「無いって」

「降りてから、外してしまったんだと思う。

 焦っていたから、どこにやったか・・・」



少なくともフリーダムに無いことは、移動させた時に確認している。

首を傾げるキラを見て、アスランは眉を寄せた。



*** next

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