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キラは女の子です | ||
「ん、これでいいわ。 フリーダムの調整は後ですぐやるから。 ね、アスラン、これね。 憶えておいて」 モビルスーツ・セイバーのコックピットで、キラは横に立つアスランへモニターを指し示す。 続いて、またカタカタとキーボードを叩き、実際にやってみせた。 「コードはこれ。 フリーダムとセイバーの専用ね。 別の機体に乗せ替えても使えないから、気をつけて」 「ああ、・・・了解」 キラの指がまた動き、開いていたプログラムを次々と終了させていく。 それを見ながら、アスランが一足先にコックピットから抜け出た。 システムが終了し、暗くなったコックピットから、キラを引っ張り上げる。 「ありがとう」 「いや」 「・・・静かね」 キラは首を巡らし、格納庫を見渡した。 視界の中に、動くものは何も見えない。 既に、深夜を過ぎていた。 警戒レベルが下げられた艦内では、乗員の大半が休息している。 MSの整備士達は今もインパルスの修理をしているかもしれないが、こことは違う区画だ。 セイバーと並んでいるザクはもう修理が完了し、戦闘の痕は消えている。 「ほんとに、勝手に帰っていいの?」 「かまわないさ。 本当なら、昼間に出て行くところだったんだろう?」 「そう・・・だけど。 でも、私、話さなくちゃいけ」 「キラ」 「だって、アス」 「必要ない」 「アスラン・・・」 通信システムを構築しながら、キラはアスランにシンの話をしていた。 それを蒸し返す彼女の言葉を、アスランは強く遮る。 「話をしたところで、意味は無いと言っているだろう。 彼は、自分のことしか見えていない。 おそらく、どんな事情を話したところで、聞く耳を持たない」 「でも、だからって謝らなくていいわけないわ」 「今、謝罪することに、意味はない。 少なくとも、今のシンにキラの心は届かないと、俺は思う。 ・・・キラが傷つくことはない。 俺が話して、落ち着いてからでいいんじゃないか?」 「・・・」 キラは、以前見たシンの、憎しみと怒りの表情を思い出した。 アスハ家がオーブを戦場にし、自分から家族を失わせた、と。 フリーダムのパイロットが殺した、と。 そこまで考えて、キラは唇を噛む。 「シンは、怖くないのかしら? 私が彼にしたことを、今度は彼が誰かにすることになる」 「恐らく、そんなことは考えもしないんだろう。 そもそも、そうでなくては戦場で戦えない。 キラのフリーダムは特別だ。 性能が上で、技術も上。 力不足であがなうのは、自分と仲間の命だ」 「・・・技術。 モビルスーツなんて、戦いにしか役に立たないのにね・・・」 望んで得た、能力ではなかった。 血の繋がった、顔も知らない父親が作り出したキラ。 彼の男は、彼女を最高のコーディネイターだと呼んだ。 キラの心が戦いを厭っても、守りたいものがある限り、そうしないではいられない。 それは、彼女に与えられた運命なのだろうか? 戦うために、生まれてきたみたい。 平凡に、生きることが許されないなんて・・・。 「・・・ラ?」 「!」 「大丈夫か、キラ? 顔色が悪い」 広い格納庫から、いつの間にかパイロット待機室の前まで来ていた。 アスランの呼びかけにはっとしキラが彼を振り仰ぐと、心配げに顔を覗き込まれる。 「なんでも」 「ない、なんて言っても聞かない。 どうした?」 「・・・ちょっと、うん、考え事。 前の戦争の時のことを思い出してたの。 もう、終わったはずだったのに、って」 「・・・そうか」 無理に微笑んで見せれば、アスランもぎこちなく頷いた。 納得していないのは明らかだったが、話したくないキラの意思を酌んでくれたのだろう。 そんな彼にもう一度微笑み、キラは1人で待機室へと入った。 *** 「ヘルメットはどうした?」 「あ・・・、と、うん。 無い・・・かな?」 「無いって」 「降りてから、外してしまったんだと思う。 焦っていたから、どこにやったか・・・」 少なくともフリーダムに無いことは、移動させた時に確認している。 首を傾げるキラを見て、アスランは眉を寄せた。 *** next |
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