no title - 82


キラは女の子です


「アスランは、ミネルバと一緒に行くのね?」

「ああ」



力無く、諦めを含んだキラの声に、アスランもまた辛そうに肯定する。

そしてキラの上から起き上がり、ベットから降りた。



「キラは、もう行った方が良いな」

「そう・・・ね。

 ラクスもマリューさん達も、待たせてしまってるから。

 ・・・何?」



手を引いて立たせてくれたアスランが、自分を見つめている。

伏せていた顔を上げたキラはそれに気付き、首を傾げた。

ゆっくりと上げられたアスランの右手が、キラの頭に触れる。

そのまま輪郭をなぞるように耳元を通り、顎を伝って止まった。

キラは軽く触れるだけの指先に、ちょっとくすぐったそうな顔をする。



「なぁに、アスラ・・・!?」



唇に触れるアスランの指に驚き、キラが硬直した。

アスランの左手はキラの右手を強く握っている。

右手はキラの顔を上向かせており、親指が動きの止まったキラの唇をなぞった。

その微かな感触に、キラの唇が震える。



「忘れないで、キラ。

 俺が離れるのは、今だけだ。

 戦争なんか続けさせない。

 続けさせるわけにはいかない。

 終わらせる。

 だけどそれは、俺が力を尽くす。

 そして俺は必ず、生きて戻る。

 キラのところに、戻るよ。

 忘れないで・・・」



真摯に語るアスランを見上げていたキラは、不意に近づく翠の瞳に咄嗟に目を瞑った。

唇に触れる、先ほどとは違う感触が、アスランの唇だとすぐに気付く。

キス、されているのだと、キラの頬に血が上った。

頭を後ろに引き、唇が離れる。

すると右手が一際強く握られ、後退りしようとした足は止まった。



「忘れないで。

 俺は、キラのものだ。

 そして、キラは俺のもの。

 俺の、何よりも大切な・・・。

 だから、決して無理をしないでくれ。

 出来ればもう、フリーダムには乗らないで欲しい。

 キラには向かない。

 もうキラが戦う必要は無い」



言っても無駄だろうと、わかっていてもアスランは言わないではいられない。

そもそも、キラが戦いたくないと思っていることなど百も承知だ。

ただ現実が、彼女を戦いへといざなっていることも。



俺も、進歩がない。

わざわざキラから離れるなんて、な。



赤い顔をしたまま潤んだ目を伏せるキラを見下ろしながら、アスランは自嘲した。



「・・・ラクスとカガリの怒りが怖いな」

「え?

 ラクスとカガリが、何?」

「いや、戻った時の2人には怒られるだろうな、と」

「そう・・・、そうね。

 プラントに戻るだけならともかく。

 ザフトに・・・軍に戻ったことを知れば・・・」

「違うよ。

 ああ、もちろんそれもあるんだけど。

 ・・・キラを泣かせて、1人にすることにだよ。

 特にカガリには、殴られるだろう」

「アスラン・・・」



苦笑し、身を引くアスランの手からも力が抜け、キラの右手が自由になる。

と、その手で、今度はキラがアスランの手を掴んだ。



「約束よっ」

「キラ?」

「絶対、・・・絶対に戻ってね。

 もう二度と、イヤだから。

 会えなくなるのも、・・・戦うのも」

「約束する。

 ここで・・・ザフトで出来ることを済ませたら、必ず戻る。

 キラがいる場所へ、必ず」

「・・・うん。

 待ってる。

 そうだ、ねぇ、アスラン。

 あのモビルスーツ、弄らせてくれる?」



もちろん、そんなことは出来ない。

軍の最新鋭機を、部外者に触らせることなど論外だ。

首を横に振ろうとしたアスランは、しかし。



「フリーダムとの専用回線を確保するの。

 そうすれば、もし近くにいれば話せるわ」



事態がどう転ぶかわからない今、その必要性は考えるまでも無い。

結局、ため息一つで了承した。



*** next

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