no title - 81


キラは女の子です


「放してっ」

「キラ」



強く抱きしめられた上に押し倒された形で、キラは身動き一つ出来ない。

自由になるのは声を出すことだけだ。



「放してったらっ。

 馬鹿アスランっ」

「ば・・・って・・・」

「馬鹿でしょっ。

 勝手に決めてっ。

 ・・・るって言ったのにっ」

「え?」

「一緒にいてくれるって言ったじゃないっ。

 なんだってまた、軍に戻るのよ!?

 ・・・もうあんなの、イヤ・・・」

「キラ・・・」



キラの体から力が抜けたのを感じ、アスランがゆっくりと体を起こす。

彼女の両脇についた手で上体を支え、見下ろした。

キラは目を逸らし、頬を濡らしている。

アスランが手をその頬へと伸ばすと、ゆっくりと視線を合わせてきた。

無言で見つめあうと、キラの手がアスランの手へと重なる。



「また戦うの?

 この手は、また命を奪うものになるの?」

「・・・っ」



アスランの顔が、苦しげに歪んだ。

情勢が思わぬ方に進んでいる。

オーブが連合と同盟を結んだことで、今度もまた、世界は2色に分かれてしまった。

コーディネイターであるキラはオーブにはいられない。

まして、その力をまたも示してしまった。

彼女はまた、戦わなくてはならなくなるだろう。

しかしそれがどんな立場でのことになるか、今はまだわからなかった。

アスラン自身が一つの陣営に身を置く以上、キラと対立しない保障はない。



「プラントで、何があったの?

 アスランをその気にさせたのは、誰?」



キラはアスランをじっと見つめ、穏やかに、だが少し哀しげに問いかけた。



「議長に会いに行く前、その気は無いって言ってたでしょう?

 なにか、あったんでしょう?」



プラントでの話をして、とキラが乞う。

アスランは小さく頷くと、宇宙に上がってからの出来事を詳しく話し出した。



***



プラント市民の様子は、キラもわかっていたのだろう。

またも行われた核攻撃。

それによる、連合、ひいてはナチュラルへの反発。

だがそれを治めた方法には。



「ラクス・・・って。

 だってラクスは」

「オーブにいる。

 わかってるよ。

 彼女は、議長が仕立てた偽者だ」

「アスラン?」

「話をした。

 本名は、ミーア・キャンベル。

 確かに、見かけはよく似ていた。

 俺も一瞬、目を疑ったほどね」

「でもなんで?

 どうして、ラクスの偽者を議長が?」

「プラントをまとめるため、だそうだ。 

 確かに、ラクスの名でミーアがした演説はプラント市民の気持ちを落ち着かせた」

「でもそれは・・・っ」

「褒められたことじゃあ、ない。

 まして、当のラクスの意思を無視してのことだ。

 その上、俺まで協力を求められた」

「・・・何を?」

「ミーアをラクス・クラインと扱って欲しい、とね。

 婚約者、アスラン・ザラとして」

「!」

「もちろん、断った。

 だいたい、俺はもう、ラクスの婚約者じゃない。

 ミーアもラクスも関係ない。

 俺にはキラがいる。

 お芝居だろうとなんだろうと、キラ以外を恋人扱い出来ないからね」

「アスラン・・・っ。

 そういう問題じゃないでしょ!?」



含みを込めた言葉と笑みに、キラの顔が赤く染まった。

抗議しながらも恥ずかしそうな彼女の様子に、気を良くしたアスランは、そっとその頬に口づける。



「そういう問題だよ。

 もちろんラクスのことは好きだけどね。

 キラ以外の女性の手をとるつもりは、まったく無い」

「アスラン・・・」

「だから、議長にもきっぱりと断った。

 そして妥協案は、偽ラクス・クラインの正体を暴かないこと」

「でも」

「当面は、ね」

「は?」

「その交換条件が、あのモビルスーツとこれだ」



アスランがキラに示したのは、襟元に付けられた、翼を模した徽章。

議長がアスランに与えた、力の証だった。



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