no title - 80


キラは女の子です


「力が、必要だと思ったからだよ」

「でも、力は争いを呼ぶ・・・」



反論しかけて、キラの声は途切れる。

自分が、まさに力・・・フリーダムを使ったことを思い出したからだ。



「力は争いを呼び、守るために力を欲する。

 わかっていても、既に争いは起こっているんだ。

 そしてもう、簡単には止まらない。

 せめて出来ることを、俺はしたい。

 キラも同じだろう?」

「・・・うん、そう・・・よね」

「守りたいものは、小さくはない。

 ・・・でも、まさかこんな風になるとは思わなかったけどな」

「何が?」

「オーブ」

「!」



キラの目が見開かれる。

アスランの言いたいことに思い至ったからだ。

そんな彼女をじっと見つめながら、アスランは言葉を続ける。



「オーブは中立を貫くのだと、思っていた。

 だからこそ、ザフトに戻ることを承諾したんだ。

 それなのに連合と同盟を結ばれてしまってはな」

「敵、なの?

 オーブは、プラントの敵?」

「・・・オーブの今後の出方次第、だろう。

 ただ、このミネルバは・・・」



はっきり語られずとも、キラにもわかった。

この艦の誰もが、オーブによって連合軍の前に差し出されたことを知っている。

自国の代表を送り届けてくれた、ミネルバを、だ。

今はまだ、軍へは情報は伝わってはいないだろう。

けれど、ミネルバがカーペンタリア基地に着けば、確実に状況は変わるのだ。

オーブはザフト軍の、つまりはプラントの敵性国家と判断されるだろう。



「アスランは、この艦と行くのね?」

「ああ、そうなる」

「私は、ここにはいられない・・・よね?」

「・・・っ、当たり前だっ」

「怒鳴らないで。

 わかってるんだから」

「冗談でも、そんなことを言わないでくれ、キラ」

「だって、当然だもの。

 私は、あの機体をザフト軍から奪って。

 ううん、それ以前に、私は連合のパイロットだったんだから。

 私自身が、本当は敵として扱われて・・・」

「違うっ。

 キラ、そんなことは今更だ。

 そのことで、俺は反対するんじゃない」

「・・・え?」



意外なことを言われ、キラは目を瞬いた。

伸ばされたアスランの手が、彼女の両肩を掴む。

痛みに顔を顰めるキラに気付かず、真剣な顔を近づけた。



「キラは、もう軍に近づいちゃいけない。

 フリーダムは、・・・キラのフリーダムは現在でも最強だ。

 少なくとも、俺のセイバーはフリーダムよりも性能が落ちる。

 ザフトの最新鋭機であるにも関わらず、ね。

 そんなキラがザフトに来れば、利用される。

 戦いを、強要されるんだ」

「私、が・・・?」

「そうだ。

 軍に入る、入らないじゃない。

 確実に、取り込もうとするだろう」

「じゃあ、なんで!?

 なんで、アスランはそんな軍に戻るの!?」

「言っただろう、俺は力が欲しい。

 守りたいものを、守りきる力が。

 ・・・キラを守りたい」

「矛盾してるわっ。

 ザフトは、プラントを守るのでしょう?

 私は、オーブにいるのよ?

 ・・・もう、いられないけど。

 でも、・・・ううん、それだけじゃない。

 私は、守って欲しいなんて」

「俺が、そうしたい。

 キラの傍で、キラだけを守るならできるかもしれない。

 けど、それじゃあ、この戦火は消えない」



否定したいのに、キラは言葉が出てこない。

別離の後に、敵として対峙し、再び手を取り合うことの出来た過去。

それをまた、繰り返すのだろうか?

今現在、敵ではなくとも、今後の情勢でどうなるかは誰にもわからない。



「また、会えなくなるのよ?」

「それ・・・は」



アスランは目を逸らした。



「オーブが連合と同盟を結んだから、私はオーブにはいられない。

 ・・・フリーダムで出たから、そもそも戻れないけど。

 マリューさん達が、迎えに来てくれる。

 ねぇ、アスランも、一緒に行こう?」

「それは、出来ない」

「アスラン・・・」

「すまない。

 復隊した以上、簡単に除隊できない」

「バカ・・・っ」



再び滲んできた涙に、キラはアスランから離れようと身をよじる。

力の抜けかけていたアスランの手は肩から簡単にはずれ、しかし代わりに、その胸に抱きこまれた。



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