no title - 79


キラは女の子です


「ルナマリア?」

「・・・っ」



壁に寄りかかって立っていたルナマリアが、驚いたように声の主を見る。



「1人?

 キラは?」

「こ、この・・・、中にいます

 1人になりたいって言われたので」

「そう。

 悪かったね、ありがとう」



微笑みながら礼を言い、アスランは歩みを止めずにルナマリアの前を通り過ぎた。

その袖を、ついと後ろに引かれる。



「・・・何か?」

「あの、あの人、泣いて・・・」

「・・・」

「あなたのことと、シンのことで。

 混乱、してるみたいです」

「わかった」



頷くと、ルナマリアの手がアスランの軍服から離れた。

彼女の肩をそっと叩き、アスランは部屋へと入る。

それを見送ったルナマリアは、小さく息を吐き、格納庫のある方へと歩き出した。



***



キラは椅子に座り、机に肘を突いて、組んだ手の上に額をのせている。

シュンッという扉の開く音には気付いたが、顔を上げなかった。



「キラ」



コツコツと近づいてきて、間近に呼ばれて初めて、キラは相手を見る。



「アスラン」

「ごめん」

「なんで、謝るの?」

「キラを泣かせて一人にしたから」

「・・・別に、アスランのせいじゃないもん」

「そうか?」

「・・・違うもん」



ぷい、と。

キラは、潤んだ目のまま横を向いた。



「グラディス艦長から、話を聞いた。

 キラはこの艦・・・いや、彼を。

 シンを守りたかったんだな」



アスランはキラの横に膝をつき、彼女の手をやさしく握る。

びくりと反射的に振り返ったキラと、アスランの目が合った。

途端、ふわりと微笑んでみせたアスランに、キラは視線が逸らせなくなる。

固まってしまったキラを、アスランは両手で抱き寄せた。



「きゃっ」



椅子から転げ落ち、キラは驚いて目の前のアスランの首に抱きつく。

しがみついてくる彼女を、アスランはそのまま抱き上げた。



「な、なに!?」

「そのままじゃ、話がし辛いからね」



1人部屋であるここには、残念ながら話をするためのスペースが無い。

部屋を見回したアスランは、結局キラをベットの上に降ろした。

自分もその端に腰掛ける。

手を伸ばし、キラの頭を撫でた。



「怖かっただろう?」

「アス・・・」

「ごめんね、一人にして」

「・・・っ、アスランっ」



胸に抱きついてきたキラを、アスランは優しく抱き返す。

緊張が一気に緩んだのか、キラはそのまま泣き出してしまった。



「私、私・・・っ」

「うん」

「守らなくちゃって・・・っ」

「うん」

「せめて、シンは、って」

「うん」

「・・・怖かったの。

 また、誰かの命を奪ってしまうかもしれない。

 もう、死なせないって思ってたのに。

 でも、結局私はあの人を殺してしまった。

 だから忘れていたかった・・・のに」

「でも、キラは選んだんだろう?

 決断するのは、辛かったね。

 そんな時に、傍にいないなんて。

 すまない、キラ」



アスランの胸の中で、キラは無言で首を横に振る。

ぎゅっと、アスランの体に回されたキラの腕に、力が篭った。

そのまま言葉を発しなくなった彼女の髪を、アスランの指が梳く。

長い沈黙が続き、やがて涙の止まったキラがゆっくりと顔を上げた。



「アスランは、必要と思うからプラントに行ったんでしょう?

 だけど、これはなんで?

 なんで、またこの軍服を着ているの?」



涙を拭いながらの、問い。

キラの顔にも声にも、不安が色濃く表れていた。



*** next

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