no title - 78


キラは女の子です


「放せよ、もう」

「・・・彼女を、追うなよ?」



ぼそりと、明らかな不機嫌顔で開放を求めたシンから、ヴィーノが手を放す。

ヨウランもゆっくりと離れ、シンが自由を得た。

途端に歩き出す彼の腕を、左右から友人2人がなんとか掴む。



「なんだよ?」

「待て、待て、シンっ」

「追うなって、言っただろうがっ」



足を止めたシンに、口々に叫ぶヨウランとヴィーノ。

そんな2人を見もせず、シンは大きく息を吐いた。



「行かねぇよ」

「だ、だけど」

「インパルス、修理するんだろ?

 俺も行かなくてどうするんだ。

 お前らこそ、行かなくていいのか?」

「「あ」」



シンの指摘に同時に声を上げた整備士達は、顔を見合わせてから慌てて駆け出す。

さっさと歩き出していたシンを、バタバタと追い越していった。



「時間は、ある。

 キラはまだこの艦にいる。

 それに、知っているのは彼女だけじゃないんだからな」



自分に言い聞かせるように呟く。

その脳裏には、タリアに連れられていったアスランの姿が浮かんでいた。



***



「ここで、待っていましょう」



通信機を通して艦長と話をしたルナマリアは、キラに座るよう勧める。

素直に従った彼女に、飲み物を用意した。

もちろん、自分の分も。

それで、ルナマリアが自分に付き合ってくれると気付き、キラは礼を言った。



「ありがとう」

「あ、これはタダですから」

「いえ、ジュースのことじゃなくて。

 すみません、忙しいんじゃないですか?」

「ん・・・まぁ、そうですね。

 でも、私のザクはかなり損傷してるから。

 ざっとの確認は済んでいるんで、とりあえずは整備の仕事です」

「・・・ああ、そっか」



キラはちょっと不思議そうに説明を聞き、なにかに思い至ったというように頷く。



「そうですよね。

 そのために、整備の人達がいるんですものね」

「そりゃ・・・、そうですよ。

 もちろん、システムなんかは自分で見たりもしますけど。

 専門の技術者に任せるのが一番でしょう。

 ・・・オーブは違うんですか?」

「え?オーブ?

 ・・・ここと、同じだと思いますけど、たぶん」

「知らないんですか?」

「・・・」



知らない。

そう答えていいものかと、キラは沈黙する。

言うのは簡単だが、なんだかさらに根掘り葉掘り訊かれるような気がしたのだ。

それは、実は正しい推測だったのである。

答えがもらえないならと、ルナマリアはふと思いついたことを口にした。



「じゃあ、別のこと訊いちゃおうかな」

「?」

「モビルスーツの操縦、どこで習ったんですか?

 フリーダムって、操るのが大変だって聞いてますよ。

 あのアスラン・ザラなら、私にも納得なんですけど。

 キラさんも、元ザフト軍なんですか?」



今でこそ、ナチュラルもモビルスーツを使う。

連合にも、オーブにもモビルスーツはあるが、しかしそれはナチュラルのために作られているのだ。

キラがコーディネイターであることはわかっている。

ならば、ルナマリアがキラをザフト出身と考えるのも無理はなかった。

それはキラにもわかるが、これも答えられるものではない。

結局、またも口を開かないまま、俯いた。



「まぁ、いいんですけどね。

 でも、シンには教えてあげてくれません?

 先の戦争の時に、フリーダムに乗っていたパイロットを」

「・・・」

「言えない、ですか?

 まさか、知らないわけはないですよね。

 黙っているってことは、・・・そういうことだと思っていいですか?」

「・・・あなたが」



言いながら、キラは顔を上げる。

立ったままのルナマリアを首を傾けて見上げ、目をしっかりと合わせた。



「シンのために言っているのは、わかります。

 その問いの答えが、私の中にあることも、確かです。

 だけど、ならば私は、彼に直接話すべきだと思います」



でも少しだけ待ってください、と。

泣きそうに顔を歪めたキラに、ルナマリアは慌てる。



「ごめんなさい。

 今、頭の中がぐちゃぐちゃで・・・。

 アスランがどうして、って。

 シンとも話さなくちゃって思うんですけど。

 だけど・・・っ」



キラの目から、涙が溢れ出した。



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