no title - 77


キラは女の子です


「ラクスのことね」

「・・・なんだ、ご存知なんですか」



指し示された人物の名をあっさりと口にするキラに、ルナマリアは気が抜けたような声を出す。



「アスランと、ラクスが婚約者だったのは知ってます」

「・・・だった?

 過去形?」

「婚約は戦時中に解消されてます。

 混乱期で、発表はされなかったんでしょう」

「ふぅん。

 でも、気になりません?

 あの、ラクス・クラインですよ?

 アスランさんが今もあの人のことを好きじゃないか、とか」

「好きですよ、もちろん」

「は?」

「私もアスランも、ラクスのことは大好きです。

 綺麗で、優しくて、しっかりしていて」

「・・・そうですか」



ルナマリアは揶揄するつもりの話題に笑顔で返されてしまい、つまらなそうに頷いた。



***



「私も?

 ・・・フェイス、か。

 議長も、何を考えているのかしらね・・・」



手にしたフェイスの徽章を、タリアはため息と共に机に置く。

目で探るようにアスランを見る彼女に、しかし望む答えは返らなかった。



「私は、指示を受けただけです」

「・・・そうね。

 ところで、今はアスラン・ザラ、でいいのね?」

「はい」

「復隊したのね。

 どうして、と聞いてもいいかしら?」

「・・・オーブだけではなく、プラントも守りたいからです。

 ただし、軍の命令に従ってただ戦うことは、もう私には出来ません。

 議長もそれで構わないと、これを」



アスランは、自分の襟にある徽章を指し示す。



「アレックス・ディノには、何も出来ません。

 オーブでの私には、何の権限も無い」

「・・・オーブのことは、聞いていて?」

「連合と同盟を結んだそうですね。

 地球降下直前に情報を得ました。

 この艦が、オーブを出航する予定も。

 ですが、戦闘行為があったことは聞いていません。

 何があったのですか?」

「待ち伏せされたの。

 オーブの領海を出たところで、連合の艦隊に囲まれたわ」



タリアの言葉が意味するところを、アスランはすぐに呑み込んだ。

その顔に、驚愕が浮かぶ。



「まさか、・・・オーブが!?」

「そうとしか考えられないわね」

「だが、カガリは・・・っ、代表は」

「彼女の意思ではないと、私も思いたいわ。

 だけど、現実は現実。

 オーブは、私たちを連合へ売った」



驚きが、怒りへと変わった。

ぎりっと奥歯を噛み締め、アスランの右拳が目の前の机に打ち付けられる。

机上の一点を見つめたその目は、何も映してはいなかった。

アスランの脳裏に浮かぶのは、オーブの宰相とその息子の顔。



「実際のところ、こうしてこの艦が航行しているのは奇跡ね。

 フリーダムの援護が無ければ、今頃は海の底よ」



フリーダム、の一言に、アスランが顔を上げた。

タリアを鋭く見やる。



「キラは何か言いましたか?」

「私たちを助けたいから。

 誰かに命令されたわけではない、とね。

 本当だと思って?」

「おそらく。

 キラに戦いを命じることのできる者はいません。

 ・・・プラントに行くんじゃなかったっ」



言葉には、悔しさが滲んでいた。

実際、アスランがその時オーブにいれば、キラを戦わせなどしなかっただろう。

必要とあらば、アスランがフリーダムに乗ることだって出来たのだ。

後悔に苛まれているそんな彼を見ながら、タリアは注意深く問いかける。



「彼女は、この後どうするつもりかしら?

 今回は助けてくれたけれど、次は連合の戦力となっているかもしれないわね?」

「ありえません。

 それだけは、ありません。

 キラが連合に加担する可能性はゼロです」

「だけど、彼女はオーブ国民でしょう。

 たしかにコーディネイターではあるけれど。

 オーブは連合と同盟を結んだ。

 彼女が拒否したとしても、あの機体が連合の物となる可能性はあるでしょう?」

「フリーダムの操縦はナチュラルには出来ません。

 あの特殊な機体は、ザフトのパイロットであっても、そう簡単には出来ないでしょう」

「でも、彼女は出来るのね」

「・・・っ」

「キラ・ヤマト。

 フリーダムのパイロットは、今も昔も彼女1人だけ、ということね」



疑問形ではなく、断定だった。

つまり、先の大戦で戦ったのもキラだと、タリアは確信したということである。

否定しても遅いと覚ったアスランは、沈黙するしかなかった。



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