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キラは女の子です | ||
「ラクスのことね」 「・・・なんだ、ご存知なんですか」 指し示された人物の名をあっさりと口にするキラに、ルナマリアは気が抜けたような声を出す。 「アスランと、ラクスが婚約者だったのは知ってます」 「・・・だった? 過去形?」 「婚約は戦時中に解消されてます。 混乱期で、発表はされなかったんでしょう」 「ふぅん。 でも、気になりません? あの、ラクス・クラインですよ? アスランさんが今もあの人のことを好きじゃないか、とか」 「好きですよ、もちろん」 「は?」 「私もアスランも、ラクスのことは大好きです。 綺麗で、優しくて、しっかりしていて」 「・・・そうですか」 ルナマリアは揶揄するつもりの話題に笑顔で返されてしまい、つまらなそうに頷いた。 *** 「私も? ・・・フェイス、か。 議長も、何を考えているのかしらね・・・」 手にしたフェイスの徽章を、タリアはため息と共に机に置く。 目で探るようにアスランを見る彼女に、しかし望む答えは返らなかった。 「私は、指示を受けただけです」 「・・・そうね。 ところで、今はアスラン・ザラ、でいいのね?」 「はい」 「復隊したのね。 どうして、と聞いてもいいかしら?」 「・・・オーブだけではなく、プラントも守りたいからです。 ただし、軍の命令に従ってただ戦うことは、もう私には出来ません。 議長もそれで構わないと、これを」 アスランは、自分の襟にある徽章を指し示す。 「アレックス・ディノには、何も出来ません。 オーブでの私には、何の権限も無い」 「・・・オーブのことは、聞いていて?」 「連合と同盟を結んだそうですね。 地球降下直前に情報を得ました。 この艦が、オーブを出航する予定も。 ですが、戦闘行為があったことは聞いていません。 何があったのですか?」 「待ち伏せされたの。 オーブの領海を出たところで、連合の艦隊に囲まれたわ」 タリアの言葉が意味するところを、アスランはすぐに呑み込んだ。 その顔に、驚愕が浮かぶ。 「まさか、・・・オーブが!?」 「そうとしか考えられないわね」 「だが、カガリは・・・っ、代表は」 「彼女の意思ではないと、私も思いたいわ。 だけど、現実は現実。 オーブは、私たちを連合へ売った」 驚きが、怒りへと変わった。 ぎりっと奥歯を噛み締め、アスランの右拳が目の前の机に打ち付けられる。 机上の一点を見つめたその目は、何も映してはいなかった。 アスランの脳裏に浮かぶのは、オーブの宰相とその息子の顔。 「実際のところ、こうしてこの艦が航行しているのは奇跡ね。 フリーダムの援護が無ければ、今頃は海の底よ」 フリーダム、の一言に、アスランが顔を上げた。 タリアを鋭く見やる。 「キラは何か言いましたか?」 「私たちを助けたいから。 誰かに命令されたわけではない、とね。 本当だと思って?」 「おそらく。 キラに戦いを命じることのできる者はいません。 ・・・プラントに行くんじゃなかったっ」 言葉には、悔しさが滲んでいた。 実際、アスランがその時オーブにいれば、キラを戦わせなどしなかっただろう。 必要とあらば、アスランがフリーダムに乗ることだって出来たのだ。 後悔に苛まれているそんな彼を見ながら、タリアは注意深く問いかける。 「彼女は、この後どうするつもりかしら? 今回は助けてくれたけれど、次は連合の戦力となっているかもしれないわね?」 「ありえません。 それだけは、ありません。 キラが連合に加担する可能性はゼロです」 「だけど、彼女はオーブ国民でしょう。 たしかにコーディネイターではあるけれど。 オーブは連合と同盟を結んだ。 彼女が拒否したとしても、あの機体が連合の物となる可能性はあるでしょう?」 「フリーダムの操縦はナチュラルには出来ません。 あの特殊な機体は、ザフトのパイロットであっても、そう簡単には出来ないでしょう」 「でも、彼女は出来るのね」 「・・・っ」 「キラ・ヤマト。 フリーダムのパイロットは、今も昔も彼女1人だけ、ということね」 疑問形ではなく、断定だった。 つまり、先の大戦で戦ったのもキラだと、タリアは確信したということである。 否定しても遅いと覚ったアスランは、沈黙するしかなかった。 *** next |
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