no title - 75


キラは女の子です


「特務隊フェイス所属、アスラン・ザラだ」



敬礼を受け、アスランは答礼する。

見覚えのある顔を見回した。



「艦長室へ呼ばれている。

 誰か」



案内を乞う言葉を途切れさせた彼の目が、一点で留まる。

不審に思った皆が、戸惑ったように頭を巡らせた。

立候補しようとしたルナマリアも、上げかけた手を止め、アスランの視線の先を振り返る。

視線が集中したそこには、シンが立っていた。

シンは、面食らったようにびくりと体を揺らせる。

だが、アスランの動きに気づき、シンは身構えた。

アスランは、足元にヘルメットを置き、険しい顔でこちらに歩いてくる。

2人を隔てるように立っていた人々は、慌てて横に避けた。



「なんだ・・・っ、なんですか?」



見守る誰もが息を呑む中、しかし彼は予想外のことをする。

上ずった声を出したシンの横を通り過ぎた。

・・・いや。

シンを無視し、彼の横で立ち止まったのだった。



「キラ・・・」

「アス・・・ラン・・・」



アスランの登場で忘れかけていた人物、キラ・ヤマト。

彼女とアスランが親しいことは、この艦の誰もが知っている。

とはいえ、彼が今、キラを見つめる目は厳しかった。

反対にキラは、呆然としたように、目の前のアスランを見つめている。



「シン。

 その手を放せ」



低いその命令口調に、シンは考える前に従い、一歩退いた。



***



「キラ。

 なぜここにいる!?」

「そ・・・れは」



見るからに怒っているアスランに、既に気弱になっていたキラは目を泳がせる。



「しかも、その格好はどういうことだ!?」

「格好・・・って」



キラは、自分がパイロットスーツを着ていることを思い出した。

体を見下ろし、しかしその目がアスランの体へと向かう。



「それ、私も、聞きたい。

 なんで、アスランがザフトの、・・・パイロットスーツを着ているの?

 所属、って・・・どういうこと?」

「そんなことは、どうでもいいっ」

「よくないっ」



興奮してきたキラは、声を張り上げた。



「軍にまた入るなんて、何を考えているの!?

 プラントで何かあったの?

 どうして、オーブじゃなくてこの艦に来たの?」



先ほどアスランがキラに目を留めた時、彼が驚いたことに気づいていたのである。

それはつまり、アスランはオーブでキラがここにいることを聞いてきたわけではないことを示していた。



「キラこそ、いったい何をしてるんだっ。

 あれを使ったのか!?」

「だってっ。

 だって今度こそ、守らなくちゃいけないからっ」

「同じことを繰り返すのか!?」

「アスランだって同じことしてるじゃないっ」

「そこまで!」



延々と続くかと思われた言い合いは、しかし一つの声が遮る。

アスランとキラは、揃って声の主を見た。



「何をしているの、あなたたち」



白い軍服で、両腕を組んで立っていたのは、タリア。



「アスラン・ザラ。

 乗艦許可は出したけれど、すぐに来てくれなくては困るわ。

 用があるのは、あなたの方なのでしょう?」

「はい、失礼致しました」

「それと、キラ・ヤマトさん。

 退艦するかしないか、どちらなのかしら?」

「あ・・・の、それは」



タリアに、すぐに退艦したいと言ったのはキラ自身だ。

しかし今は状況が変わっている。

困ったように、今の今まで言い合っていたアスランを見た。

その見られたアスランは、すっと動いてタリアの視線からキラを隠すように立ち位置を変えている。



「状況を確認出来ていません。

 艦長には、彼女の滞在許可を頂きたい」

「それは、・・・フェイスとしての判断かしら?」

「そう考えてくださって結構です」



タリアはアスランをじっと見つめ、やがてふっと息を吐いた。



「許可しましょう」



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