no title - 74


キラは女の子です


「あんたが、フリーダムに乗ってきたんだな?」

「・・・」



答えなくてはと思うのだが、俯くキラの口は微かに開いては閉じられる。

声が、言葉が出て来なかった。

そんな彼女に焦れたのか、シンがキラの両腕を掴む。

はっとしたように顔を上げたキラとシンの視線が絡んだ。



「知ってるんだろう、キラ?

 俺の家族を、マユを殺したのは、誰なんだ!?」

「・・・っ」



キラを揺さぶりながら、シンの手に力が篭っていく。

掴まれた腕が痛かった。

だがそれ以上に、心が痛む。

目を逸らしたい。

そう思いながらも、彼の気迫に圧されて動けなかった。



「知らないはず、無いだろう?

 あれを、どこから持ってきた?

 どこにいるんだ、あれのパイロットは?

 生きているんだろう!?」

「生きて・・・る」

「どこにいる?

 人を殺して、のうのうと生きているんだろう。

 褒め称えられて、さぞいい気分でな!」



シンの憎しみが、その言葉がキラを苛む。

彼の目はキラを見ながら、その先にいるはずの家族の敵を見据えていた。

けれど、それはキラ自身なのである。

しかしそうとは知らないシンの友人達は、慌ててシンをキラから引き離そうとした。



「や、止めろって、シンっ」

「そんなに詰め寄ったら、答え難くなるだろう!?」



両肩を掴まれたシンだったが、まったく気にしない。

尚もキラに言い募ろうとするその時、格納庫にサイレンが響いた。

それと共にメイリンの声による艦内放送が事態を告げる。



「モビルスーツ一機が、右舷より進入します。

 要員は退避してください」



聞いた途端、ヴィーノとヨウラン、そしてフリーダムに取り付いていた整備士達が、一斉に身を翻した。

キラとシンとを置き去りにし、パタパタと走り去る。



「・・・行くぞ」

「ど・・・こへ?」

「いいからっ」



ゆっくりとキラの腕から手を離したシンは、代わりに右の手首を握った。

そのまま踵を返して早足に歩き出す彼に、引きずられるようにキラも歩かざるを得ない。



「あの、・・・放して、・・・歩きづらい」

「やだよ。

 放したら、逃げるかもしれないからな」

「に、逃げない、から・・・」

「悪いけど」



唐突に立ち止まったシンに、キラはたたらを踏んだ。



「信じられない。

 俺は、答えを聞くまで放さない」

「・・・シン」



振り向くことなく再び歩き出したシンの足は、しかし先ほどよりはやや遅くなっている。

それでも早足であることには変わりないのだが、キラへの気遣いが感じられた。

キラはもう、黙って従うしかない。

無言のまま進む2人は、やがて人だかりのある場所までたどり着いた。

頭を巡らしたシンは、見つけたヴィーノに近づく。



「赤いモビルスーツ・・・。

 これがさっき言われた奴?」

「そ」



気が立ったままのシンは、邪魔をしたそれを睨み上げた。

その赤い機体のコックピットハッチが開く。

降りてきた人物は、紫色のパイロットスーツを着ていた。

見慣れないその色に、シンの眉根が寄る。

そちらに気を取られていたシンは、彼の横でキラの目が見開かれたことには気づかなかった。



「なんだ、あいつ?」

「しっ。

 よく見ろよ、あの人の胸元」

「・・・フェイス?」



フェイスであれば、ここにいる誰よりも上官ということになる。

気づいた誰もが慌てて敬礼をした。

シンと、そしてキラとを除いて。



「おいっ、シンっ」



しかしヴィーノに脇腹を肘でつつかれ、不本意そうに敬礼する。

そんな彼らの前に歩み寄ってきた相手は、ゆっくりとヘルメットを外した。



「アスラン・ザラ!?」



思わず、というように上げられたのはヨウランの声。

だがそれは、この場の全員の声でもあった。



*** next

Top
Novel 2


Counter