no title - 73


キラは女の子です


「早く」

「は?」

「・・・あ、なんでもないです」



つい呟いてしまったことで、横を歩く兵士が反応してしまい、キラは慌てて首と手を振る。

一瞬立ち止まってしまった足をもう一度踏み出し、今度は気づかれないように小さく息を吐いた。



早く、戻ろう。

みんな、待っててくれるから。



キラは、彼女を送り出してくれた面々を思い浮かべる。

予定にない行動をとってしまっていた。

原因はもちろん、シン。

彼の意識が無かったために、その無事を確認しないではいられなかった。

だが目的を果たした以上、この艦から早く降りなければならない。

キラの仲間といえる人達が、キラを迎える準備をしていてくれるはずなのだ。



心配、してるよね。

とにかく、急ごう。

そう、・・・シンに気づかれる前に。



シンに恨まれるのは当然だと思っているキラだったが、しかし。

彼の憎しみと対面するほどの覚悟は、まだ持てないでいた。

キラの乗ってきたフリーダムにシンが気づいてしまえば、彼に追求される。

それは疑いようの無い予測だ。

そしてその時、シンを前に、キラは真実を口にするだろう。

偽ろうと思えば、偽れるのだ。

モビルスーツが同じでも、パイロットが同じ証拠など無いのだから。

事実、タリアの追求はすべて退けた。

それでも。



誤魔化していいことじゃない。

だけど、・・・だけど。



「大丈夫ですか?」

「・・・っ」

「あの」



思考に没頭していたキラは、突然声をかけられて、びくんと立ちすくむ。

声の方を見て、自分が道を曲がり損ねたと気づいた。



「ごめんなさい、ちょっと考え事してて」

「・・・いえ、それはいいですが。

 ご気分が悪いんですか?

 どこか、怪我でも?」



顔色が良くないですと告げられ、キラはまじまじとその兵士を見つめる。

と、彼女は微笑んだ。

彼が、部外者であるキラの心配してくれているのがわかって。

戦闘を経験したばかりで、優しさを示されたことが嬉しかった。



「大丈夫です。

 気遣ってくださって、ありがとう」

「い、いえ・・・っ」

「?」



礼を言った途端、くるりと背を向けられ、キラは首を傾げる。

自身の魅力に気づいていない彼女は、相手が自分を意識してしまったことに気づかなかった。

不思議に思いながらも、さっさと歩き出してしまった兵士の後に続く。

そうして着いた格納庫。

視線の先に、キラのフリーダムがあった。



***



「おい、落ち着けよ、シンっ」

「放せっ。

 放せ、ヴィーノ、・・・ヨウランもっ」

「ダメだって言ってるだろっ」

「どこ行って、なにするつもりなんだよ、お前はっ」

「聞くんだよっ。

 キラに、こいつのパイロットのことをっ」



整備士の友人2人を振り切ろうと、シンが暴れる。

しかし2対1。

それでも諦めないシンの耳に、聞き覚えのある声が届いた。



「シ・・・ン?」



ぴたりと、シンが動きを止める。

首をめぐらし、その赤い瞳が紫色の瞳とぶつかった。



「キラ・・・」



キラの目がすっと逸らされる。



「手、離せよ」

「あ、ああ」



小さく告げられた言葉に、ヴィーノとヨウランがシンから手を離した。

腕を取り戻し、シンはキラへと足を踏み出す。

カツカツと進み、彼女の目の前で立ち止まった。



「キラ、聞きたいことがある」

「・・・」

「あれはフリーダム、だな?」

「・・・ええ」



俯いたまま、キラが答える。

その声が震えていることに気づいても、シンには言葉を止められなかった。

頭の隅に、以前に彼女が倒れた時のことが思い浮かぶ。

それでも、訊かないではいられなかった。



*** next

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