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キラは女の子です | ||
「早く」 「は?」 「・・・あ、なんでもないです」 つい呟いてしまったことで、横を歩く兵士が反応してしまい、キラは慌てて首と手を振る。 一瞬立ち止まってしまった足をもう一度踏み出し、今度は気づかれないように小さく息を吐いた。 早く、戻ろう。 みんな、待っててくれるから。 キラは、彼女を送り出してくれた面々を思い浮かべる。 予定にない行動をとってしまっていた。 原因はもちろん、シン。 彼の意識が無かったために、その無事を確認しないではいられなかった。 だが目的を果たした以上、この艦から早く降りなければならない。 キラの仲間といえる人達が、キラを迎える準備をしていてくれるはずなのだ。 心配、してるよね。 とにかく、急ごう。 そう、・・・シンに気づかれる前に。 シンに恨まれるのは当然だと思っているキラだったが、しかし。 彼の憎しみと対面するほどの覚悟は、まだ持てないでいた。 キラの乗ってきたフリーダムにシンが気づいてしまえば、彼に追求される。 それは疑いようの無い予測だ。 そしてその時、シンを前に、キラは真実を口にするだろう。 偽ろうと思えば、偽れるのだ。 モビルスーツが同じでも、パイロットが同じ証拠など無いのだから。 事実、タリアの追求はすべて退けた。 それでも。 誤魔化していいことじゃない。 だけど、・・・だけど。 「大丈夫ですか?」 「・・・っ」 「あの」 思考に没頭していたキラは、突然声をかけられて、びくんと立ちすくむ。 声の方を見て、自分が道を曲がり損ねたと気づいた。 「ごめんなさい、ちょっと考え事してて」 「・・・いえ、それはいいですが。 ご気分が悪いんですか? どこか、怪我でも?」 顔色が良くないですと告げられ、キラはまじまじとその兵士を見つめる。 と、彼女は微笑んだ。 彼が、部外者であるキラの心配してくれているのがわかって。 戦闘を経験したばかりで、優しさを示されたことが嬉しかった。 「大丈夫です。 気遣ってくださって、ありがとう」 「い、いえ・・・っ」 「?」 礼を言った途端、くるりと背を向けられ、キラは首を傾げる。 自身の魅力に気づいていない彼女は、相手が自分を意識してしまったことに気づかなかった。 不思議に思いながらも、さっさと歩き出してしまった兵士の後に続く。 そうして着いた格納庫。 視線の先に、キラのフリーダムがあった。 *** 「おい、落ち着けよ、シンっ」 「放せっ。 放せ、ヴィーノ、・・・ヨウランもっ」 「ダメだって言ってるだろっ」 「どこ行って、なにするつもりなんだよ、お前はっ」 「聞くんだよっ。 キラに、こいつのパイロットのことをっ」 整備士の友人2人を振り切ろうと、シンが暴れる。 しかし2対1。 それでも諦めないシンの耳に、聞き覚えのある声が届いた。 「シ・・・ン?」 ぴたりと、シンが動きを止める。 首をめぐらし、その赤い瞳が紫色の瞳とぶつかった。 「キラ・・・」 キラの目がすっと逸らされる。 「手、離せよ」 「あ、ああ」 小さく告げられた言葉に、ヴィーノとヨウランがシンから手を離した。 腕を取り戻し、シンはキラへと足を踏み出す。 カツカツと進み、彼女の目の前で立ち止まった。 「キラ、聞きたいことがある」 「・・・」 「あれはフリーダム、だな?」 「・・・ええ」 俯いたまま、キラが答える。 その声が震えていることに気づいても、シンには言葉を止められなかった。 頭の隅に、以前に彼女が倒れた時のことが思い浮かぶ。 それでも、訊かないではいられなかった。 *** next |
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