no title - 72


キラは女の子です


「艦長、いいんですか?」

「じゃあ、どうしろと言うの、あなたは!?」

「・・・っ、そ、それは」



厳しく問い返されて、アーサーは首を縮める。

キラは、兵士に連れられて既に退室していた。

タリアが、彼女の退艦を許可したのである。

彼を睨みつけたタリアは、だがすぐにはっとしたように顔つきを改めた。



「ごめんなさい、八つ当たりね・・・」

「あ、いえ」



先ほどまでのキラとの話が、タリアの頭を悩ませている。

話、といってもそうたいした内容ではなかった。

キラの主張は、彼らを・・・ミネルバのクルーを助けたいから。

そして誰の命令でもなく、彼女自身の意思だけによるものだと。

肝心のモビルスーツ・・・フリーダムについての質問には、答えられないを繰り返していた。



「彼女のおかげで、私達は生きてる。

 敵ではないわね、確かに今は。

 先のことはわからないけどね。

 だけど、あの力は大きすぎる。

 敵にまわすことはできないわ」

「それは、まぁ」

「実際、私たちにも軍にも、不利益なことをされたわけではない。

 それなら、彼女の希望通りに、許可するしかないわ」



タリアは口調には、苦々しさと諦めがにじんでいる。

さらには大きくため息を吐く彼女に、アーサーが恐る恐る口を開いた。



「ですが、本当でしょうか?」

「何が?」

「どこの陣営にも所属しないというのは」

「さあね。

 考えても仕方無いし、彼女を尋問するわけにもいかないでしょう。

 捕虜じゃあ、ないんだから」

「そう・・・ですよね。

 それで、艦長はどう思いますか?」

「?」

「先の大戦で活躍したフリーダムの、パイロットだと思います?」



これも本人に訊いたのだが、今回のことには関係無いと答えを拒否されている。

だがそれこそが、アーサーが最も気になったことだ。

フリーダムのことは彼も噂に聞いている。

なんでも、ザフト軍が開発した機体だと。

そして、かの歌姫ラクス・クライン率いる第三勢力の戦力として圧倒的な力を発揮したことを。

どうしてそうなったのかは、機密として真実は隠されている。

それでもそれらは、あまりにも有名な話だった。



「あなたはどう思って、アーサー?」

「・・・2年も前のことですよ。

 あんなに華奢な少女が、とはとても思えません。

 訓練された軍人にも、とても見えないですし」

「そうね。

 彼女が軍人らしくないというのは、私も同意見。

 だけど、・・・さっきの戦闘はあなたも見たでしょう。

 うちのパイロット達にフリーダムを与えて、あれができると思って?」

「・・・それは、やってみないと」

「無理よ。

 おそらく、無理。

 なのに、そんなものを簡単に操る彼女。

 なにより、条件は揃っているわ。

 ・・・アスラン・ザラとカガリ・ユラ・アスハ。

 彼らがフリーダムの在り処を知らなかったなんて、まさか、でしょう。

 一応平和だった2年の間に、キラさんに訓練させたなんてこともね。

 彼らの彼女に対する過保護ぶりからすれば、考えられないわ」

「じゃあ・・・っ」



推測される、その答え。

興奮したアーサーがそれを口に乗せる前に、一つの音がそれを止めた。

ピーッ、と。

甲高いその音は、艦橋からの通信を知らせるものである。

伸ばされたタリアの指が、スイッチを押した。



「どうしたの、メイリン?」

「あ、あの、それが。

 我が軍の機体が一機、近づいてきているんです」

「・・・カーペンタリアからかしら?」

「いえ、違います。

 どうも、宇宙から降りてきてるみたいで」

「宇宙、から?」

「・・・っ、着艦許可を求めてますっ」

「すぐに艦橋に行くから、待たせなさい。

 アーサー、行くわよっ」

「はっ」



***



「フリーダムなのか、これ?」

「・・・たぶんな」



シンの家族を奪ったモビルスーツ。

それを目の前にして、シンは呆然としている。

少なからず話を聞いているヴィーノは、はっきりと言いづらくて、つい曖昧な返答をした。



「これが、フリーダム・・・。

 なんで、ここに?」

「ああ、いや、だから。

 あの彼女がこれでお前を助けてくれたんだろうが」

「・・・キラが、これを?

 なんで?」

「・・・俺に訊かれてもな」



ヴィーノとしても、いや、ここにいる誰もが同じ疑問を持っていることは想像に難くない。

そして、誰も答えを持っていないのだった。



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