no title - 69


キラは女の子です


「・・・キラ・ヤマト?」



医師であるライラが、怪我人を待ち構えている。

シンに手を引かれるまま降りてくるキラを見て、彼女は訝しげに名を呼んだ。

しかしキラはそんな相手に気づかず、シンの怪我をしきりに気にしている。



「シン、動いて、平気?

 治療が済むまで」

「平気だよ」

「でも血が」

「平気だったらっ」



らちの明かない言い合いは、ライラが間に入って止めた。



「はい、ストップ。

 怪我人はこっちだね?

 どれ・・・、血は止まりかけてるようだが」



さすがに、シンも医師に逆らったりはしない。

大人しく頭部を見せ、指示に従って医務室へと場所を移した。



***



「悪いね、ちょっと離れていて」

「あ、はい、すみませんっ。

 ・・・と、シン?」

「え?

 あ・・・っ」



シンと手を繋いだままだったため、キラは医務室まで来てしまっている。

だが、さすがに治療の邪魔になると言外に言われ、慌てて離れようとした。

しかしシンはなにやら考え中だったらしい。

キラに促されて自分が彼女の手を握りっぱなしであったことに気づき、こちらも慌てて離した。

その頬が微かに赤らんでいたが、キラは気づかない。

彼女はシンの治療の様子をチラチラと見ながら、部屋の隅にある椅子に腰掛けた。



***



「ライラさん、彼の怪我・・・」

「大丈夫だよ。

 平気でしゃべって、歩いている。

 頭の怪我は、出血が多いものだからね。

 まぁ、しばらく休むことだ」



治療を終えたライラは、包帯を巻くのは看護師に任せて、シンから離れた。

安堵のため息を吐いたキラを、ライラは洗った手を拭きながら目で隣室へと誘う。



「それで?」

「はい?」



勧められるままライラの前に座ったキラは、きょとんとした目を向けてきた。

それに対して、ライラは苦笑を浮かべる。



「なんだって、君がここにいる?

 それに、その格好は・・・」

「・・・っ」

「それは、オーブ軍のパイロットスーツ、かな?

 ・・・まぁ、私には関係ないが」



答えをためらうキラをじっと見つめた後、ライラは立ち上がった。

医務室の外への扉を開く。

途端、何人もの武装した兵士たちが雪崩れ込んできた。



「ご無事ですか!?」



そう叫んだのは、紅い軍服に着替えたルナマリア。

彼女も、手に銃を持っている。

室内を見回した目をキラに留め、つかつかと歩み寄った。



「艦長が、呼んでいます。

 ご同行ください」

「・・・はい」



言葉は丁寧だが、銃を向けられていて、キラに拒否権があるはずもない。

また、今更避けるわけにもいかないことを、キラも承知していた。



インパルスを置いて、すぐ飛び立つつもりだったんだけど、ね。



シンの意識の無い様子に、彼女はかなり動揺していたようである。

明かすつもりの無かった過去。

シンはまだ気づいていないようだったが、それを知られるのも時間の問題だった。



さっきは、シン、庇ってくれたけど。

・・・次に会う時は。



お前が俺の家族を殺した、と。

そう言われるのかと想像するだけで、キラの胸が塞ぐ。

そしてそれは事実であるがために、彼女は甘んじて受けなければならないと思った。

震えそうになる体を、キラはゆっくりと立ち上がらせる。

血の気の引いた顔を上げ、ルナマリアに従った。



***



「シン。

 軍服、持ってきてあげたわよ」

「ああ、ルナ」

 

言葉通りにシンの軍服を持ったルナマリアが医務室を覗く。

シンはベットから身を起こして、差し出されたそれを受け取った。



*** next

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