no title - 68


キラは女の子です


「シン、怪我してるんだから、無理しないで」



混乱して固まったままのルナマリアからシンへと視線を移し、キラは話しかける。

不自然な体勢をとらされているために、その声は苦しげだった。

それに気づいて、シンは声を荒げる。



「人の心配してる場合かよっ」



叫び、キラを抑えている2人に、彼女を解放するように迫った。

もちろん、彼らもキラを見知っている。

シンに言われずとも、このような乱暴な扱いをしなければならない相手だとは思わなかった。

しかし、私情で行動するわけにもいかない。



「ですが、艦長から通達が・・・」

「捕まえろって?」

「い、いや、そういうわけじゃあ、・・・なぁ?」

「あ、ああ」

「なら」



頷きあい彼らに、シンがさらに口を開こうとするのを、一つの声が遮った。



「ちょっと待ちなさい」

 

先ほどまで呆けていたルナマリアが、シンの横から飛び降り、キラと目線を合わせるように屈む。

キラも、彼女をじっと見つめた。



「先に、確認させてもらってからよ」



キラから目を逸らさないまま、ルナマリアはシンたちに告げる。

それは、キラへの通告でもあった。



「あれ、操縦していたのは、あなたで間違いないわね?」

「・・・ええ、そうです」

「オーブ軍、じゃないわよね?」



オーブ軍は戦闘時、明らかに連合に協力するように領海内から威嚇してきている。

それに対して、フリーダムはこのミネルバを助けた。

その行動が、軍の意思に反することは確かだろうと問えば、キラはこくりと頷く。



「私は、軍に所属していません」

「じゃあ、どこに所属しているの?」

「・・・」

「まさか政府・・・とかなわけはないわよね」

「もちろんです」

「そうよね。

 オーブ政府が軍を動かしたはずだから・・・。

 なら、いったい誰の命令で?」

「命令・・・?」



不思議そうに繰り返すキラに、ルナマリアは目つきを鋭くした。



「あなたを、あれに乗せたのは、誰?

 誰かに言われたんでしょう?

 ・・・もしかして、アスラン・ザラ?」



ふと思いついた名前を口にしてみると、そんな気がしてくる。

だがキラは、慌てたように首を振った。



「違・・・っ」

「それじゃ」

「待てよ、ルナ!」



状況がいまひとつ読めず、とりあえず黙って聞いていたシンは、そこでルナマリアを遮る。

その上キラを押さえつけている4本の腕を、シンの手が振り払った。



「話なんか、こんな風にする必要ないだろっ。

 よくわかんないけどよ。

 キラは大人しくしてるんだから」



シンの言うとおり、拘束から外されても、キラはじっとしている。

いや、じっとしていたが、彼女の手がすっと動いた。

背を向けているシンは気づかなかったが、それを目にしたルナマリアがぴくりと体を硬くする。

そしてシンに警告を発しようと口を開きかけた。



「シ・・・」

「怪我、手当てをしないと」



どこか潤んだようなそのキラの声に、ルナマリアの肩が落ちる。

銃を向けても、拘束されて詰問されても、キラは平然としているように見えた。

その彼女がシンに触れる手が、今、微かに震えている。

少なくともキラがシンを心配していることだけは、ルナマリアにもわかった。

この状況で尋問を続けるのはためらわれる。

それに、この同僚の怪我も、確かに放っておけなかった。

とはいえどうしたものかと頭を悩ませる彼女を、下からの声が救う。



「怪我人はいるかい?」

「いますっ」



すぐさま返答したのは、キラだった。



「こっちに降ろせる?」

「自分で、降りますっ」



更なる問いかけには、シンが自身で答える。

そうしておいて、彼はキラの手をとった。



「シン?」

「降りよう」



手を引かれるまま立ち上がったキラをシンが促す。

ルナマリアが止める隙を与えず、シンはキラを連れて、インパルスを歩いて降りていった。



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