no title - 67


キラは女の子です


「ここ、よね?」



慎重に、と自分に言い聞かせながら、キラは指示された通りにミネルバに着艦する。

艦が機動したままだったため、速度をあわせての進入だったが、戦闘に比べればずっと楽だった。

ただ、抱えているインパルスに衝撃を与えないように、格納庫内の空いた場所まで移動する。

自力で立つことの出来ないそれを、フリーダムはゆっくりと床に降ろした。

インパルスを手近な壁にもたれるように座らせる。

そのままフリーダムに膝をつかせて、キラはコックピットをせり上げた。

素早く飛び出し、フリーダムの機体の上を駆け、インパルスへと飛び移る。



「待て!」



声と共に何かが飛来した。

咄嗟に屈んだキラの目は、モビルスーツの装甲に跳ね返ったのが銃弾であると見て取る。

見れば、下から複数の銃口が向けられていた。

真ん中にいるのは、キラも見知ったルナマリア。

キラと同じくパイロットスーツを着ているが、ヘルメットは外されているのでそれがわかった。

逆に、彼女がキラと気づいていないこともわかる。



警戒するのは、わかるけど。

なんだって、人命を優先しないんだろう・・・っ。



ヘルメットの中でキラの顔は悲しげに歪んだ。

そして、彼女は崩していた体勢から立ち上がる。



「動くな!」



ルナマリアの声を無視して、キラは既に見つけていたスイッチに手を伸ばした。

カチッという感触をキラの指に伝えた後、インパルスのコックピットが開かれる。

するりと滑り込んだキラは、パイロット・・・シンの頭からヘルメットを取り去った。



「血が・・・っ。

 ん・・・、邪魔っ」



頭部から流れる血に驚き、急がなくてはと彼の体を固定しているベルトに手を伸ばす。

だが自分のヘルメットが邪魔になり、むしり取った。

もう一度、と手を伸ばしたキラの耳に、微かな声が届く。



「マユ・・・?」

「え?

 シン、気づいた!?」

「キ・・・ラ・・・?」

「そうよ。

 わかる?大丈夫?」

「なに、イタ・・・っ」



首を動かしたシンは、途端、痛みに顔をしかめた。



「あ、怪我してるのよっ。

 すぐに手当てを」



言いかけたキラの頭に、硬いものが押し付けられる。

それが何か、わからないほどキラも鈍くは無かった。



「手を上げろ!」



すぐ傍からの本気の声音に、キラはさすがに身を強張らせる。

目はシンを見つめたまま、ゆっくりと両手を上げた。



***



「ルナ・・・?」

「シン、無事ね!?

 ちょっと待っててね。

 この人を、先に排除しないと危険だから」

「排除・・・って、え?」



目の前のキラとルナマリアを見比べ、シンは困惑をあらわにする。

その間に、キラの両手は別の兵士によって後ろ手に拘束された。



「ちょっ、ちょっと待てよ、ルナっ。

 なんで彼女を!?」

「敵か味方か、わからないからよ。

 確かに助けてもらったけど。

 でも、こちらの指示を無視するようじゃあ・・・。

 と、彼女!?」



シンの問いかけにさらりと答え、しかしシンの言葉の一部に疑問を抱き、叫びながら振り返る。



「女!?」



そこには、件のパイロットが、モビルスーツに押さえつけられていた。

ルナマリアからは顔は見えないが、その体型がシンの言葉を裏付けている。



あの、フリーダムのパイロットって、女の人だったの!?

嘘・・・っ、いやでもっ、大戦の時とは違う人かもしれないしっ。



ルナマリアが混乱しているうちに、シンはベルトを外した。

痛みを堪えて立ち上がり、彼女の持つ銃を掴む。



「シン!?」

「なんでだよ。

 彼女は、敵じゃないだろう?」

「どうしてそんなこと、わかるのよ?」

「ルナこそ。

 あいつならともかく、キラは議長を助けてくれたし。

 この艦の修理にも協力してくれてたって、メイリンも言っただろうが」

「そりゃ、彼女は・・・って、キラ、ですてぇっ!?」



ルナマリアの上げた驚きの叫びに、拘束されたパイロット・・・キラは顔を起こした。



*** next

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