no title - 66


キラは女の子です


「シン、シン・アスカ!

 返事をして!」



インパルスに乗っているはずの彼の名を繰り返し呼びながら、キラは周囲の状況確認も怠らない。

案の定、連合艦隊からフリーダムへと砲弾が浴びせられた。

インパルスを探して海に潜っている間に体勢を取り直したのだろう。

とはいえ、艦の主な砲頭はほとんど壊されており、モビルスーツ群も同様だ。

荷物を持っているせいで攻撃力も機動力も落ちたフリーダムでも、それを避けるのは容易い。

追撃してくる力はもう無いだろうことを確信し、キラは彼らに構わずミネルバを追った。



***



「モビルスーツ、接近してきますっ」



叫ぶバートへと、艦橋クルーのほとんどが顔を向ける。

タリアが鋭い声を出した。



「数は!?」

「1・・・、いえ、待ってください。

 2、ですっ。

 フリーダム、そしてインパルスですっ」



聞いた途端、メイリンは手元のモニターにインパルスの状態を表示させる。

距離が縮まったことで、また繋がったのだ。



「インパルス、エネルギー残量0!?」



悲鳴のようなメイリンの声に、アーサーが思わずというように問いかける。



「どういうことだ!?」

「インパルスは、自力飛行をしているわけではないということよ、アーサー。

 バート、どう?」

「そのようです。

 映像、出します」



言葉と共に、正面のスクリーンに2機が大きく映し出された。

片足を失ったインパルスを、フリーダムが吊り下げるように飛んでいる。

それはまるで、獲物を巣へ持ち帰る大鳥のようで、タリアは一瞬身震いをした。



「フリーダムから、入電ですっ」

「・・・読み上げなさい」

「インパルスを確保。

 パイロットの意識無し。

 ミネルバへの着艦を許可されたし。

 以上ですっ」

「・・・」



嬉しそうに読み上げたメイリンは、振り返った先に渋面のタリアを見て、その顔に戸惑いを浮かべる。

問いかけようとして、こちらを見たタリアの目で制された。



「ねぇ、アーサー」

「は、はい!?」

「・・・あれは、どうして我が軍の通信回線を知っていると思う?」

「・・・っ、そ、そういえば・・・」

「メイリン、戦闘中の通信は、オープン回線だったの?」

「ち、違います。

 入電も、軍専用のものです」

「あ、ですが、フリーダムは元々我がザフト軍が製造したものですし」

「バカね。

 そうだとしても、もう2年以上前のことよ。

 当時とは回線が違うわよ」

「フリーダム、来ますっ」



バートの声と同時に、インパルスを連れたフリーダムが皆の肉眼で確認される。

既に遮蔽を解いていた艦橋から、一度追い越したミネルバに合わせて減速し、少しずつ近づいてくるのがわかった。

先ほどのタリアの言葉もあり、どうして良いかとクルー達がタリアの指示を待つ。

もしもフリーダムを疑うならば、着艦させるわけにはいかなかった。

しかし、攻撃も躊躇われる。

なにしろ、相手はシンのインパルスを持っているのだ。

それを盾にされれば・・・。

緊張が高まる艦橋で、タリアはしかしあっさりと決断する。



「メイリン。

 フリーダムに伝えなさい。

 着艦を許可する、と。

 それと艦内にこのことを。

 くれぐれも、油断しないように」

「わかりました」



メイリンは神妙な面持ちで頷いた。



***



「シン・アスカが?」

「はい、意識不明だそうです。

 それで今、機体ごと格納庫へ運ばれてくるそうなので」



たった今、重傷者の処置を終えた医師に、看護師が艦橋からの連絡を伝える。

ライラは医務室内を見回し、未だ処置を終えていないのは軽傷者のみであることを見て取った。



「運ばれてくるって、まだ帰艦してなかったのかい?」

「先の戦闘で、海中に取り残されたのを別のモビルスーツが運んできたそうです」

「別って」

「詳しいことは、私には。

 とにかく、格納庫で待機するようにとのことです」



不審げなライラに、看護師はきっぱりと言い切り、さっさと患者の処置に当たり始めてしまう。

ライラはため息を一つ吐き、すぐ傍にある格納庫へ行くべく医務室を飛び出した。



*** next

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