no title - 65


キラは女の子です


「はい、フリーダムです」



既に聞きなれたタリアの声に、キラはあえて平坦に応える。

必要が無い以上、彼らに自分がこれに乗っていると知られたくはなかった。

なにしろ、あそこにはシンがいるのだから。



「あなたは、味方、なのかしら?」

「敵ではありません」

「・・・助けてくださったものね。

 離脱するのは良いけれど、だけど、あなたがこちらを撃たない保障はないわ」

「信じていただくしかありません。

 ・・・ただ、そちらに油断させる必要があると思いますか?」



言外に、フリーダムがミネルバを沈めるのは容易いと告げる。



「間をおけば、連合も体勢を直してしまいます。

 ・・・オーブ軍も動くかもしれません。

 決断を」



今、先ほどまでの戦闘が嘘のように、海上は静まり返っていた。

連合艦隊も、ミネルバも。

無事なのは、オーブ軍だけである。

そちらへはキラは攻撃を加えなかった。

オーブの砲撃は威嚇のためのもので、ミネルバには着弾していない。

だから、でもあるし、キラも自国の艦に攻撃などしたくなかった。



「モビルスーツが一機、海に落ちたの」

「知っています。

 パイロットの生存確認は?」

「生きてはいる。

 意識は無いようだけど」

「では、そちらは任せてください。

 海から引き上げて、すぐに追いつきます」



***



タリアとフリーダムのパイロットとの会話を、ミネルバの艦橋クルー達は緊張して聞いている。

特にメイリンは、シンのことが心配で気が気ではなかった。

この通信に遮られる形でタリアの命令が途切れ、彼女はインパルスの捜索にレイをまだ出せいてない。



「・・・この海域を離脱します。

 艦首をカーペンタリア基地へ。

 アーサー!」

「は、はいっ」

「艦長、シンは!?

 シンはどうするんですか!?」



メイリンの思わずといった叫びに、タリアの指示を実行しようとしていたアーサーもバッと振り返った。

だがそんな彼を、タリアが一括する。



「アーサー、急ぎなさい!

 メイリン、シンはあれが助けてくれるそうよ」

「あれって・・・フリーダムが?

 でも、だけど」

「信じるしか、ないでしょう。

 今のこの艦は、再度の攻撃には耐えられないわ。

 もちろん、フリーダムに攻撃されたら、・・・言うまでもないわね。

 疑っていても仕方ないの」



まだ何か言いたそうなメイリンを目で制し、タリアは正面に向き直った。

そしてクルー達に、連合とオーブ軍への警戒を怠らないよう言い渡す。



「フリーダムについては、様子を見ます。

 だけど、動きには注意していなさい」



タリアの言葉を受け、バートが神妙な面持ちで頷いた。



***



「やっと、行ってくれた・・・」



ミネルバが、西・・・カーペンタリア基地へと移動し始めるのを確認し、キラはちょっと息をつく。

目を戻し、連合やオーブの動きを見落とさないように気を配り続けた。

と、その目が、連合の艦から飛び立とうとするモビルスーツ数機を見つける。



「ミネルバを、追うつもり?

 それとも、私?」



問うように呟くキラの言葉を肯定するように、それらはフリーダムへと飛んできた。

彼女は一瞬辛そうに顔を歪め、だが体は当たり前のように彼らに照準を合わせていく。



「これで、諦めてくれるといいんだけど」



連合のモビルスーツは、あるものは肩を砕かれ、またあるものは頭部が砕かれていった。

攻撃力を失い母艦に戻るもの、コントロールを失って海に落ちるものなど様々だったが、一機として無事ではいない。

どうやらそれで搭載機はすべてだったのか、それきり連合の艦隊から出てくる機体は無かった。

そのことと、そしてミネルバが十分に離れたことを確認し、キラはフリーダムを海中へと飛び込ませる。



「シン、無事でいて・・・」



フリーダムの機能をフルに活用し、キラはインパルスを捜した。

ミネルバを守ろうと思った第一の理由は、シン・アスカ・・・彼である。

その彼をここで失いたくなど無かった。

シン、シンと、呟くように名前を呼ぶキラは、やがて求めるものを見つけて目を輝かす。



「いた・・・!

 生きていてっ」



フリーダムにインパルスを抱えさせ、海中から勢いよく飛び出した。



*** next

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