no title - 64


キラは女の子です


「な・・・んだ!?」



インパルスの足が、連合のモビルアーマー・ザムザザーに砕かれる。

海に落下していくそのコックピットでシンが見たのは、そのモビルアーマー自身が砕け散る姿だった。

紅い瞳が驚愕に見開かれ、しかし次の瞬間には力なく閉じられる。



「インパルス!

 シン、シン、返事して!」



通信機からメイリンの必死の呼びかけが響くが、答えるべき彼は既に気を失っていた。

操り手を失ったまま、インパルスは海面に激突する。



***



「シン!

 ・・・っ、ダメですっ。

 インパルス、応答がありませんっ」



叫んで、メイリンは救いを求めるように艦長のタリアを振り返った。

だがそのタリアは、正面のスクリーンを、身を乗り出すようにして見つめている。



「艦長・・・?」



気づけば、副官のアーサーも同じだ。

メイリンもつられるようにそちらを見ると、そこには白いモビルスーツが映し出されている。

見覚えの無いその機体に、メイリンはそれが連合のものだと思った。

・・・アーサーの声を耳にするまでは。



「フリーダム!?

 艦長!」

「・・・ZGMF-X10A、フリーダムですっ」



索敵担当のバートも、アーサーの言葉を肯定した。



「本物、ということね」



スクリーンを睨むようにしながら、だがタリアの声は穏やかに応える。



「艦長、あれは、どうしたら」

「落ち着きなさい、アーサー。

 敵、というわけではなさそうよ」



フリーダムは、その背と腰の砲門をクルリと前方に向けていた。

・・・ミネルバの上空で。

その機体の名は知っていても性能については知らないメイリンは、その後に起こったことが信じられなかった。



「・・・え?

 な・・・にが、いったい・・・?」



連合の艦からミネルバに放たれた攻撃が、フリーダムからの攻撃とその誘爆によってただの一つも着弾しなかったのである。

さらには、連合のモビルスーツが次々と墜ちていった。

もちろん艦隊からはフリーダムとそしてミネルバへの攻撃が続いている。

しかしそれも、フリーダムがひらりと飛んで近づいたかと思うと、沈黙していくのだった。



「嘘・・・ほんとに?」



連合軍からの攻撃が止む。

あっという間のことだった。

つい先ほどまで、もしかしたらと考えなかったと言ったら嘘になる。

ただただ必死だったから、それ以上考えなかっただけだ。

だがこうして余裕が出来てみれば、自分たちが・・・ミネルバがいかに危機的状況だったかはよくわかる。

それが、ただ一機のモビルスーツの登場で一変した。



「艦長、どうしますか!?」



連合の艦隊には、とりあえずもう攻撃力は無さそうである。

あれらを叩いておくべきか、それとも離脱するか、アーサーが艦長に問うた。

離脱、というのが一番無難ではある。

そして、すぐそこには、連合と同盟を結んだオーブの艦隊があった。

そちらが、果たしてミネルバが去るのを見過ごすだろうか、と。



「・・・シンは、インパルスはどう?」



即答せず、タリアはメイリンに目を向けてきた。

それにはっとして、メイリンは手元のパネルを操作する。

呼びかけもしてみるが、やはり返事は無かった。



「生命反応、有りっ。

 通信機も生きていますが、パイロットの意識が無いようですっ」

「では、レイに」



捜索をと、そう続けようとしたタリアの言葉が、唐突に入った通信に途切れる。

映像は無く、声だけが届いた。



「ミネルバ、すぐに離脱をしてください」



やや固い口調で語られたそれは、その声の主が少年か、または若い女性らしいと推測できる。

フリーダムのパイロットだと、誰もが思った。

メイリンも、それを確認して叫ぶ。



「フリーダムからの通信ですっ」

「ミネルバ、聞こえますね?

 すぐに、移動してください。

 危険は、こちらで防ぎますから」



続けられる声に、タリアはメイリンに、通信を自分の方へまわすように命じた。



「ミネルバ艦長、タリア・グラディスよ。

 そちらは、フリーダムのパイロットね?」



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