no title - 63


キラは女の子です


「震え、止まって・・・」



久しぶりにフリーダムのコックピットに入ったキラは、微かに震える両手を握り締める。



「あの時は平気だったのに。

 必死、だったからってことかな・・・?」



思い出すのは、アーモリーワンでのことだ。

キラは安全な移動手段としてモビルスーツ・ザクウォーリアを乗りこなしている。



あの時と違うのは・・・。

今回は、戦うためだってこと、か。

それと。



「アスラン、じゃないから。

 ・・・よね、多分。

 アスランが心配だったから。

 だから、平気だったんだ。

 ミネルバにはでも、シンもいる。

 私は、彼を死なせたくない」



今、キラが再び戦う力を手にしようとするのは、守りたいと思う者たちがいるからだ。

過去、ストライクを操ったのが、友人達を守ろうとしてだったのと同じく。

その結果、親友だったアスランとは、敵として対峙することとなってしまった。

キラにはザフト軍も地球軍も無く、ただただ、自分と仲間の命を守りたい一心だったのである。

それが、相手の命を奪っていく行為であることを考える余裕など無かった。

命を秤にかけているつもりも。

けれど今、キラの心にはまだどこか躊躇いがあった。



マリューさんの言うように、ミネルバはアークエンジェルとは違う。

クルーは多いし、モビルスーツのパイロットが3人もいる。

みんな、昔のアスランと同じ紅い色を着てた。

ムウさんのメビウスと、素人の私が操るストライクしか無かったアークエンジェルとは違う。

違う・・・んだけど・・・。



「でも、それで突破できるほど、連合は甘くない。

 戦力差は、埋められない。

 このままでは、ミネルバが墜ちるのは・・・避けられない。

 だから、私は戦う。

 彼を、彼らを無事に帰すために」



自らに言い聞かせるように呟いたキラの体から、震えが消える。

目を閉じ、大きく息を吸って、吐いた。

再び瞳を開いたキラは、もう戦士の顔をしている。

慣れた仕草でその指が動き、フリーダムも息を吹き返した。



「マリューさん」



通信機を操り、頭上の邸内にいるはずのマリューに呼びかける。

返事は、すぐに返ってきた。



***



オーブ領海のすぐ外で、ミネルバは連合の艦隊に囲まれている。

その上、オーブ軍が領海に入るなと砲撃までしていた。

ミネルバも奮戦しているが、どう見ても旗色は悪い。

マリューはバルトフェルドと目を見交わしあい、相手も同じ判断を下したことを確認した。

そしておもむろに、キラへと通信を開く。



「キラさん。

 やっぱり、ミネルバは苦戦してるわ。

 連合は新型のモビルアーマーを用意してきてる。

 艦主砲が通じてない」

「わかりました。

 では、フリーダム、発進します」

「大丈夫ね?」

「はい。

 それより、後のことをお願いします」

「わかってる。

 それじゃ、気をつけて」



真顔で頷いたキラを最後に、通信は切れた。

次いで、どこからか地響きが起こる。

そう大きなものでは無かったが、フリーダムが工場内でバーニアを噴かした音だとマリューにはわかった。



「さぁ、私たちも行きましょう」

「代表は置いていくかね?」

「連絡がとれなかったんですもの。

 仕方ないでしょう。

 まさか誘拐するわけにはいかないし。

 彼女が自分の責任を放り出すとも思えないわね。

 まぁ、キラさんの希望だから努力はしたけど。

 それより問題は、アスラン君だわね」



プラントへ向かった、アスラン。

彼からの連絡は未だ無い。



「キラさんのためには、彼に傍にいて欲しいのだけれど。

 ま、彼ならどこからでも彼女を探し出すでしょう」



ストライクに乗っていたキラに、笑顔は無かった。

気づいても、マリューにはどうすることも出来ず。

しかしフリーダムで戻った彼女・・・当時は彼だと思っていたが・・・は変わっていた。

そしてなにより、途中からアスランが加わったことで、マリューは初めて、キラの本当の笑顔を知ったのである。

艦に乗る全ての人々の命をその肩に負っていた、キラ。

常に最も力を持ち、期待されていた彼女は、やっとその重みを分け合うことが出来たのだ。



*** next

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