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キラは女の子です | ||
「震え、止まって・・・」 久しぶりにフリーダムのコックピットに入ったキラは、微かに震える両手を握り締める。 「あの時は平気だったのに。 必死、だったからってことかな・・・?」 思い出すのは、アーモリーワンでのことだ。 キラは安全な移動手段としてモビルスーツ・ザクウォーリアを乗りこなしている。 あの時と違うのは・・・。 今回は、戦うためだってこと、か。 それと。 「アスラン、じゃないから。 ・・・よね、多分。 アスランが心配だったから。 だから、平気だったんだ。 ミネルバにはでも、シンもいる。 私は、彼を死なせたくない」 今、キラが再び戦う力を手にしようとするのは、守りたいと思う者たちがいるからだ。 過去、ストライクを操ったのが、友人達を守ろうとしてだったのと同じく。 その結果、親友だったアスランとは、敵として対峙することとなってしまった。 キラにはザフト軍も地球軍も無く、ただただ、自分と仲間の命を守りたい一心だったのである。 それが、相手の命を奪っていく行為であることを考える余裕など無かった。 命を秤にかけているつもりも。 けれど今、キラの心にはまだどこか躊躇いがあった。 マリューさんの言うように、ミネルバはアークエンジェルとは違う。 クルーは多いし、モビルスーツのパイロットが3人もいる。 みんな、昔のアスランと同じ紅い色を着てた。 ムウさんのメビウスと、素人の私が操るストライクしか無かったアークエンジェルとは違う。 違う・・・んだけど・・・。 「でも、それで突破できるほど、連合は甘くない。 戦力差は、埋められない。 このままでは、ミネルバが墜ちるのは・・・避けられない。 だから、私は戦う。 彼を、彼らを無事に帰すために」 自らに言い聞かせるように呟いたキラの体から、震えが消える。 目を閉じ、大きく息を吸って、吐いた。 再び瞳を開いたキラは、もう戦士の顔をしている。 慣れた仕草でその指が動き、フリーダムも息を吹き返した。 「マリューさん」 通信機を操り、頭上の邸内にいるはずのマリューに呼びかける。 返事は、すぐに返ってきた。 *** オーブ領海のすぐ外で、ミネルバは連合の艦隊に囲まれている。 その上、オーブ軍が領海に入るなと砲撃までしていた。 ミネルバも奮戦しているが、どう見ても旗色は悪い。 マリューはバルトフェルドと目を見交わしあい、相手も同じ判断を下したことを確認した。 そしておもむろに、キラへと通信を開く。 「キラさん。 やっぱり、ミネルバは苦戦してるわ。 連合は新型のモビルアーマーを用意してきてる。 艦主砲が通じてない」 「わかりました。 では、フリーダム、発進します」 「大丈夫ね?」 「はい。 それより、後のことをお願いします」 「わかってる。 それじゃ、気をつけて」 真顔で頷いたキラを最後に、通信は切れた。 次いで、どこからか地響きが起こる。 そう大きなものでは無かったが、フリーダムが工場内でバーニアを噴かした音だとマリューにはわかった。 「さぁ、私たちも行きましょう」 「代表は置いていくかね?」 「連絡がとれなかったんですもの。 仕方ないでしょう。 まさか誘拐するわけにはいかないし。 彼女が自分の責任を放り出すとも思えないわね。 まぁ、キラさんの希望だから努力はしたけど。 それより問題は、アスラン君だわね」 プラントへ向かった、アスラン。 彼からの連絡は未だ無い。 「キラさんのためには、彼に傍にいて欲しいのだけれど。 ま、彼ならどこからでも彼女を探し出すでしょう」 ストライクに乗っていたキラに、笑顔は無かった。 気づいても、マリューにはどうすることも出来ず。 しかしフリーダムで戻った彼女・・・当時は彼だと思っていたが・・・は変わっていた。 そしてなにより、途中からアスランが加わったことで、マリューは初めて、キラの本当の笑顔を知ったのである。 艦に乗る全ての人々の命をその肩に負っていた、キラ。 常に最も力を持ち、期待されていた彼女は、やっとその重みを分け合うことが出来たのだ。 *** next |
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