no title - 62


キラは女の子です


「さぁて、我々も行動開始だな」



キラ1人を扉の向こうへと見送り、バルトフェルドはラクスの背を押して地上の家へと戻る。

時々振り返るラクスには、彼は気づかない振りをしていた。



「お帰りなさい。

 ちゃんと送り出してあげられたのね」



ヘッドセットをつけたマリューが、部屋に入ってきた彼らを迎える。

先の言葉は、バルトフェルドへ。

後の言葉はラクスへだった。



「どんな様子だい?」

「・・・やっぱり、予想は大正解。

 オーブに向かって、連合の艦隊が近づいて来てる。

 ミネルバは、まだ気づいていないでしょうけど」



マリューは、オーブ軍の通信などを傍受して情報を収集している。

もちろんそこにはセキュリティがかかっているが、ここにある機器にはキラが細工してくれてあった。

簡単な操作で、こういうことが苦手なマリューにも必要な情報が手に入れられる。



「そのミネルバがオーブの領海を出るのは?」

「たぶん、今日の夕刻よりは前になるでしょう。

 ・・・キラさんは大丈夫かしら?」

「本番に強いタイプだからな。

 あとは、タイミングか。

 それと、ここに戻ってこられるかってのが問題だが」

「Nジャマーで、はっきりとはわからないでしょう。

 ただ、知ってる人は、知ってますからね」

「子供達が巻き込まれないうちに、私達も・・・」

「ええ。

 みんなには、連絡をとったわ。

 もっとも、ミネルバが単独であれを突破したら無駄になるけどね」

「そんときゃ、俺たちに少しだけ時間が与えられるだけだ。

 出て行かなきゃならないことに変わりない。

 ・・・あんなものを置いていくわけにゃ、いかないだろうが」



***



「ラクス?」



モニターの中で、彼女は確かにそう言った。

アスランは呆然とそれを見つめる。

そして彼女の口から語られる、言葉。

最高評議会と、そして今彼の横に立つ議長とを擁護するようなその言葉。



「君には無論、わかるだろう」



穏やかな声に、アスランはハッとしてそちらを見た。

議長はだが背を向けていて、彼がどんな表情をしているのかは見えない。



「我ながら小賢しいことと情けなくなるが。

 だが、仕方ない。

 彼女の力は大きいのだ。

 私のなどより、遥かにね・・・。

 馬鹿なことを、と思うがね。

 だが、今私には、彼女の力が必要なのだよ」



そこまで話すと、彼はくるりと振り返った。

しかし暗がりで、その顔はやはり窺えない。



「また、君の力も必要としているのと同じにね」

「私・・・?

 私に出来ることなど・・・、いえ、それよりも。

 確かに、ラクスの言葉に力があるのは認めます。

 ですが、あんな偽者を立てるなど」



先の言葉はアスランに、あの偽のラクス・クラインを作り出したのが議長なのだと覚らせた。

そして、当時から続けている評議員は、本物のラクスを知っている。

これは即ち、評議会そのものも関わっていると推測できた。



「そんな、プラント市民を騙すようなことを・・・。

 本人を知っていれば、すぐにばれてしまうのではありませんか?」

「・・・そうでもない。

 彼女が公の場に最後に出たのは、もう2年も前。

 多少の変化は気づかないものだよ。

 ・・・君がその口を閉じていてくれれば、ね」

「私はっ。

 そんな協力は致しかねますっ」

「君は、ラクス・クラインの婚約者だ」

「それは、既に解消しております」

「だが、皆は知らない。

 私は、2度とあんな戦争を繰り返したくはない。

 そのために必要なことをする。

 君もそうだと言っただろう」

「そ・・・れは」



戦争回避。

彷徨わせたアスランの目が、モニターに向く。

そこではラクスを騙る少女が歌っていた。

そして別のモニターには、先ほどまで声高に叫んでいた民衆が、静かに歌声に聞き入っている様子が映っている。

核を撃たれ、怒っていた彼らの気持ちはアスランにもよくわかっていた。

彼の母は、まさにその核で失われている。

わからないわけがなかった。



だが、だからといって偽りで誤魔化していいのか?



答えを出すことが出来ないまま、議長に促されて場所を移動する。

迷うアスランに議長が差し出したのは、一機のモビルスーツだった。



*** next

Top
Novel 2


Counter