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キラは女の子です | ||
「さぁて、我々も行動開始だな」 キラ1人を扉の向こうへと見送り、バルトフェルドはラクスの背を押して地上の家へと戻る。 時々振り返るラクスには、彼は気づかない振りをしていた。 「お帰りなさい。 ちゃんと送り出してあげられたのね」 ヘッドセットをつけたマリューが、部屋に入ってきた彼らを迎える。 先の言葉は、バルトフェルドへ。 後の言葉はラクスへだった。 「どんな様子だい?」 「・・・やっぱり、予想は大正解。 オーブに向かって、連合の艦隊が近づいて来てる。 ミネルバは、まだ気づいていないでしょうけど」 マリューは、オーブ軍の通信などを傍受して情報を収集している。 もちろんそこにはセキュリティがかかっているが、ここにある機器にはキラが細工してくれてあった。 簡単な操作で、こういうことが苦手なマリューにも必要な情報が手に入れられる。 「そのミネルバがオーブの領海を出るのは?」 「たぶん、今日の夕刻よりは前になるでしょう。 ・・・キラさんは大丈夫かしら?」 「本番に強いタイプだからな。 あとは、タイミングか。 それと、ここに戻ってこられるかってのが問題だが」 「Nジャマーで、はっきりとはわからないでしょう。 ただ、知ってる人は、知ってますからね」 「子供達が巻き込まれないうちに、私達も・・・」 「ええ。 みんなには、連絡をとったわ。 もっとも、ミネルバが単独であれを突破したら無駄になるけどね」 「そんときゃ、俺たちに少しだけ時間が与えられるだけだ。 出て行かなきゃならないことに変わりない。 ・・・あんなものを置いていくわけにゃ、いかないだろうが」 *** 「ラクス?」 モニターの中で、彼女は確かにそう言った。 アスランは呆然とそれを見つめる。 そして彼女の口から語られる、言葉。 最高評議会と、そして今彼の横に立つ議長とを擁護するようなその言葉。 「君には無論、わかるだろう」 穏やかな声に、アスランはハッとしてそちらを見た。 議長はだが背を向けていて、彼がどんな表情をしているのかは見えない。 「我ながら小賢しいことと情けなくなるが。 だが、仕方ない。 彼女の力は大きいのだ。 私のなどより、遥かにね・・・。 馬鹿なことを、と思うがね。 だが、今私には、彼女の力が必要なのだよ」 そこまで話すと、彼はくるりと振り返った。 しかし暗がりで、その顔はやはり窺えない。 「また、君の力も必要としているのと同じにね」 「私・・・? 私に出来ることなど・・・、いえ、それよりも。 確かに、ラクスの言葉に力があるのは認めます。 ですが、あんな偽者を立てるなど」 先の言葉はアスランに、あの偽のラクス・クラインを作り出したのが議長なのだと覚らせた。 そして、当時から続けている評議員は、本物のラクスを知っている。 これは即ち、評議会そのものも関わっていると推測できた。 「そんな、プラント市民を騙すようなことを・・・。 本人を知っていれば、すぐにばれてしまうのではありませんか?」 「・・・そうでもない。 彼女が公の場に最後に出たのは、もう2年も前。 多少の変化は気づかないものだよ。 ・・・君がその口を閉じていてくれれば、ね」 「私はっ。 そんな協力は致しかねますっ」 「君は、ラクス・クラインの婚約者だ」 「それは、既に解消しております」 「だが、皆は知らない。 私は、2度とあんな戦争を繰り返したくはない。 そのために必要なことをする。 君もそうだと言っただろう」 「そ・・・れは」 戦争回避。 彷徨わせたアスランの目が、モニターに向く。 そこではラクスを騙る少女が歌っていた。 そして別のモニターには、先ほどまで声高に叫んでいた民衆が、静かに歌声に聞き入っている様子が映っている。 核を撃たれ、怒っていた彼らの気持ちはアスランにもよくわかっていた。 彼の母は、まさにその核で失われている。 わからないわけがなかった。 だが、だからといって偽りで誤魔化していいのか? 答えを出すことが出来ないまま、議長に促されて場所を移動する。 迷うアスランに議長が差し出したのは、一機のモビルスーツだった。 *** next |
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