no title - 61


キラは女の子です


「本気ですの?」

「・・・まだ言うの、ラクス?」



ピンク色のハロ・・・ピンクちゃんを抱えて俯くラクスに、キラは困ったように横を見る。

白い無機質な壁に囲まれた室内には、キラとラクス、そしてバルトフェルドがいた。

キラの視線を受けて、パルトフェルドも口を開く。



「本人がそう決めたんだ。

 俺たちがどうこう言うことじゃない。

 ・・・らしくないな、ラクス・クライン」

「ですがっ。

 私はもう、キラに傷ついて欲しくありませんわ。

 あの時は、それが必要なのだと思ったから。

 だから、キラ、あなたに新たな剣をお渡ししたのです。

 あなたと、そしてアスランにとっても」



最期の一言に、キラの顔色がわずかに変わった。

そしてラクスは、それを見逃さない。



「アスランが、戻るのを待つ方がよろしいのではありませんか?

 今のあなたは1人ではないのです。

 他人の意見や状況に流されての決断は、もちろん良いことではありませんけれど。

 ・・・1人で結論を出すことぱかりが、良いことではありませんわ。

 信頼する相手に相談することも、大切なことです」

「・・・アスラン、いないもの。

 こんな状況で、プラントに連絡なんてとれないでしょう?

 マリューさんも、バルトフェルドさんも了承してくれた。

 ラクスだって、一度は頷いてくれたんだから」

「でも、キラ。

 ・・・カガリさんには、言っていないのでしょう?」

「言えないわ。

 カガリは、私とは立場が違う。

 責任も違う。

 第一、オーブを出ると言っただけで、反対されたもの。

 こんなの、相談しても止められちゃうだけだから」



だから鍵を出して、とキラはラクスを促した。

そんなキラから、ラクスは手元のハロに視線を落とす。

黙り込んでしまったラクスに、しかしキラはそれ以上何も言わなかった。

無言で、ラクスが鍵を取り出すのを待っている。

そう、キラはラクスがそうしてくれるとわかっていた。

ただただ、キラを心配していくれているだけで、彼女はちゃんと知っている。

ここでキラが行かなければ、無駄に命が失われてしまうだろうことを。

そして事実、そうなった。

ラクスの指がハロの背面に触れ、ハロがぱっかりと口を開く。

そこには、金色と銀色、一対の鍵が並んでいた。



「ありがとう、ラクス」



キラの手がそっと、2つの鍵をとる。

ラクスの目は、その指先が一瞬ためらったのに気づいた。

だから、キラと、そしてバルトフェルドがそれぞれ鍵穴に差し込んだ時、鋭い声でキラに問いかける。



「キラ」

「・・・ラクス?」



鍵に手を掛けたまま、キラはラクスを振り返った。



「最後に、一つだけ、よろしい?」

「・・・何?」

「それは、戦うための力です。

 命を、奪うことの出来る力です。

 守るために必要でも、そのことにかわりはありませんわ。

 そして、これは始まりです。

 始める以上、最後まで貫かなくてはなりません。

 それだけの覚悟、出来ておりますわね?」

「・・・出来てなんか、無い」

「キラ!?」

「出来るわけ、ないじゃないっ」



叫ぶキラとラクスが睨みあう。



「戦いたくなんか、ないんだからっ。

 もう私の手は、たくさんの命を・・・。

 あんなのは、もうイヤだもの。

 だけど、だからって彼らを見殺しになんか出来ないでしょう?

 そりゃ、私が出たからって敵うとは限らないけど。

 でも、連合の艦隊に囲まれたら、ミネルバだってそうもつわけない。

 みんな、いい人だわ。

 命がけで、地球を守ろうと力を尽くしてくれた。

 それを、私はこの目で見てる」

「ですが、迷っているなら、余計な手出しというものです」

「迷っているわけじゃないっ。

 そんなんじゃ、ない。

 戦いたくない気持ちと、彼らを助けたい気持ちは、決して相反するものじゃない。

 わかって、ラクス」



キラは鍵から手を離し、既にラクスと向き合っていた。

対峙する2人に、バルトフェルドが口をはさむ。



「まぁ、戦いたくて戦うような奴は、そうはいないわな。

 いいんじゃないかな、歌姫さんや。

 今回は、巻き込まれたわけじゃあない。

 本人がそう決めたってんだから。

 ま、遠からず俺たちもこの国を出なきゃならない。

 それに彼らは、同胞だ。

 助けられるものなら、助けたいのは俺も同じだ」



その言葉を聞きながら、しかしラクスはキラを見つめ続けていた。

そして目を伏せたのは、ラクス。

わかりましたわ、と小さく呟く彼女に、キラもありがとうと小さく返した。



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