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キラは女の子です | ||
「なんにしても、俺たちもそろそろ身の振り方を決めておかないといかんな。 俺と、歌姫と、・・・キラも」 顔を両手で覆ってしまったキラに、さらに追い討ちをかけるようにバルトフェルドが言う。 それには、キラはピクリと肩を揺らし、顔を上げざるを得なかった。 「連合は、コーディネイターを認めない」 「・・・はい。 でも、でも、・・・その前に。 ミネルバのことをっ」 「ああ、そうだな。 さて、どうしますかね、マリューさんや?」 「あらあら、私に振られても困りますわ。 それぞれ、一人ひとりが自分で考えなくては、ね」 「・・・おっしゃるとおりで」 そう言いながらも、年長者2人はキラに優しい目を向ける。 マリューはキラの前に膝を折り、彼女と視線を合わせた。 「キラさん。 今のあなたは、ただの女の子よ。 どんな義務も、無いわ。 だから、よく考えて。 自分がどうしたいのか。 自分で決めるのよ」 「マリューさん・・・。 だけど、だけど、でも。 ミネルバは、あの艦の人たちは、命がけで地球を守ろうとしてくれた。 そんな彼らが」 「彼らは、軍人よ。 彼らは、身を守る力を持っているわ。 でも、あなたには、無い。 あなたが彼らにしてあげられることは、もうしてあげたでしょう?」 マリューが言っているのは、キラがミネルバの修理に手を貸したことだろう。 そして、そう。 彼女の言うことは、間違っていなかった。 今のキラは、力を持ってない。 あの大戦の時、ラクスから託された力は既に失われていた。 なにより、あの日々を無かったことと心の奥に封じ込めたのは、キラ自身。 ・・・みんなを守りたくて尽くした力は、たくさんの命を奪ってしまった。 なのに、突きつけられた事実が辛くて、すべてを忘れてしまおうとしてた。 みんなの優しさに甘えて・・・。 アスランもカガリも、せめてこの訪れた平和を守ろうと努力してきたのに。 私は、何もしなかった。 マリューの視線を避けるように顔を逸らしたキラの体が、微かに震えだした。 黙って見守る2人の前で、彼女は声を絞り出す。 「ミネルバには、シンがいるんです」 「シン? って、誰かしら?」 「モビルスーツの、パイロット。 シン・アスカ。 オーブ出身で。 あの戦いの時、家族が、・・・家族が犠牲に」 そこまで言って、キラは自嘲するように笑った。 そうでもしないと、泣き出してしまいそうで。 「彼の家族は私が殺したんです。 守るべき命をこの手で奪って。 彼が1人で哀しみ、苦しんでいる時、私は」 「キラさんっ」 パンッ、と。 キラの頬が大きな音を立てた。 突然のことに、キラは呆けたようにマリューを見る。 「しっかりしなさい。 私が聞いているのは、あなたがどうしたいかよ。 ・・・事情はわからないけど。 償いでどうこうしなくてはいけないなんて、今は考えないで」 「だ、けど」 だんだんと熱を持ってきた頬に、キラは手をあて、俯いた。 その途端、膝の上に涙が落ちる。 「あ・・・」 慌てて目元を拭うキラに、マリューは安心したように息を吐いた。 そして彼女の横に座ると、その頭を抱き寄せる。 「1人で、全てを抱え込むのは止めなさい。 それに、泣きたい時は我慢しなくていいのよ」 「私は、でも、そんな資格は」 「関係ないわね。 ・・・もう、こんな時に彼がいたら良かったんだけど。 肝心な時にいないわね、アスラン君」 「アスランは」 「はい、はい。 彼には彼の事情も考えもあるでしょうけどね。 でも、彼にとって一番大切なのは、あなたのことでしょう?」 「・・・」 答えられないキラの背を、マリューはポンポンと優しく叩いた。 *** next |
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