no title - 59


キラは女の子です


「なんにしても、俺たちもそろそろ身の振り方を決めておかないといかんな。

 俺と、歌姫と、・・・キラも」



顔を両手で覆ってしまったキラに、さらに追い討ちをかけるようにバルトフェルドが言う。

それには、キラはピクリと肩を揺らし、顔を上げざるを得なかった。



「連合は、コーディネイターを認めない」

「・・・はい。

 でも、でも、・・・その前に。

 ミネルバのことをっ」

「ああ、そうだな。

 さて、どうしますかね、マリューさんや?」

「あらあら、私に振られても困りますわ。

 それぞれ、一人ひとりが自分で考えなくては、ね」

「・・・おっしゃるとおりで」



そう言いながらも、年長者2人はキラに優しい目を向ける。

マリューはキラの前に膝を折り、彼女と視線を合わせた。



「キラさん。

 今のあなたは、ただの女の子よ。

 どんな義務も、無いわ。

 だから、よく考えて。

 自分がどうしたいのか。

 自分で決めるのよ」

「マリューさん・・・。

 だけど、だけど、でも。

 ミネルバは、あの艦の人たちは、命がけで地球を守ろうとしてくれた。

 そんな彼らが」

「彼らは、軍人よ。

 彼らは、身を守る力を持っているわ。

 でも、あなたには、無い。

 あなたが彼らにしてあげられることは、もうしてあげたでしょう?」



マリューが言っているのは、キラがミネルバの修理に手を貸したことだろう。

そして、そう。

彼女の言うことは、間違っていなかった。

今のキラは、力を持ってない。

あの大戦の時、ラクスから託された力は既に失われていた。

なにより、あの日々を無かったことと心の奥に封じ込めたのは、キラ自身。



・・・みんなを守りたくて尽くした力は、たくさんの命を奪ってしまった。

なのに、突きつけられた事実が辛くて、すべてを忘れてしまおうとしてた。

みんなの優しさに甘えて・・・。

アスランもカガリも、せめてこの訪れた平和を守ろうと努力してきたのに。

私は、何もしなかった。



マリューの視線を避けるように顔を逸らしたキラの体が、微かに震えだした。

黙って見守る2人の前で、彼女は声を絞り出す。



「ミネルバには、シンがいるんです」

「シン?

 って、誰かしら?」

「モビルスーツの、パイロット。

 シン・アスカ。

 オーブ出身で。

 あの戦いの時、家族が、・・・家族が犠牲に」



そこまで言って、キラは自嘲するように笑った。

そうでもしないと、泣き出してしまいそうで。



「彼の家族は私が殺したんです。

 守るべき命をこの手で奪って。

 彼が1人で哀しみ、苦しんでいる時、私は」

「キラさんっ」



パンッ、と。

キラの頬が大きな音を立てた。

突然のことに、キラは呆けたようにマリューを見る。



「しっかりしなさい。

 私が聞いているのは、あなたがどうしたいかよ。

 ・・・事情はわからないけど。

 償いでどうこうしなくてはいけないなんて、今は考えないで」

「だ、けど」



だんだんと熱を持ってきた頬に、キラは手をあて、俯いた。

その途端、膝の上に涙が落ちる。



「あ・・・」



慌てて目元を拭うキラに、マリューは安心したように息を吐いた。

そして彼女の横に座ると、その頭を抱き寄せる。



「1人で、全てを抱え込むのは止めなさい。

 それに、泣きたい時は我慢しなくていいのよ」

「私は、でも、そんな資格は」

「関係ないわね。

 ・・・もう、こんな時に彼がいたら良かったんだけど。

 肝心な時にいないわね、アスラン君」

「アスランは」

「はい、はい。

 彼には彼の事情も考えもあるでしょうけどね。

 でも、彼にとって一番大切なのは、あなたのことでしょう?」

「・・・」



答えられないキラの背を、マリューはポンポンと優しく叩いた。



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