no title - 57


キラは女の子です


「ラクス!?」



視線の先に、ここのいるはずのない人物を捉え、アスランは思わず声を上げる。

ここはプラントだ。

そしてアスランは、議長との面会を求め、待っているところだったのである。

彼の耳に聞き覚えのある声が届き、様子を見に来たそこに、ラクスがいた。

彼女はアスランに気づき、嬉しそうに抱きついてくる。



「ああ、嬉しいっ。

 やっと来てくださいましたのねっ」



驚きで声も出なくなったアスランは、それでも慌てて身を離させた。



「君は、どうしてここに・・・」

「ずっと待ってたのよ、あたし。

 あなたが来てくれるのを」



ふふ、と笑う相手に、しかしアスランの顔つきだだんだんと真剣なものに変わる。

彼女の顔をじっと見つめ、低い声で問いかけた。



「ラクス、じゃないな。

 君は誰だ?」

「ラクス・クラインですわ」

「俺は君を知らない」

「・・・今は、私がラクス・クラインです」



どういうことだと問いただそうとしたその時、彼らの元へスーツ姿の男が2人駆け寄ってくる。

ラクス様と呼びかけられて振り返る、ラクスに似た少女。



「では、また。

 でも良かったわ。

 ほんとに嬉しい。

 アスラン」



ラクスを、騙っている?

どうして、・・・どうやってだ?



混乱した頭で、しかしここで騒ぎを起こすわけにはいかないと理性がアスランを止めた。

少女に付き添う2人は、明らかに彼女をラクス・クラインとして扱っている。

連れ立って歩み去る3人を、アスランはただ黙って見送るしかなかった。

考えをまとめようとしたその時、背中から声が掛かる。



「アレックス君」

「・・・議長」



振り向いたそこには、アスランが待っていたデュランダル議長の姿があった。



***



プラントに対して、あの事件の犯人グループを差し出すようにとの要求。

受け入れられなければ、武力行使するという地球連合。

犯人グループが全員あの場で散ったことを知っているキラにしてみれば、それは宣戦布告と変わりないとわかっていた。

連合が発表した時刻は、午前0時。

とても眠る気になれなかったキラは、ベランダから夜空を見上げていた。

宇宙で行われる戦闘が、地球から見えるわけが無いとわかっていて、それでも今のキラにはそうするしかできない。

だがその目に、信じられないものが映った。



「あ、れは・・・!?」



空の一角を無数の光が彩る。

信じられないものを見たというように、キラの目が見開かれた。



「核・・・、核の光・・・っ。

 どうして・・・?」



なんで、核なんか。

・・・っ、プラントにはアスランも行ってるっ。

どうか、どうか無事で・・・っ。



ベランダの柵を握り締め、潤みそうになる目を、光が消え去った空へと向ける。

しばらくそうして佇んでいたキラは、やがてゆっくりと部屋へと戻り、ベットに身を横たえた。



「アスラン・・・」



今このとき、キラにアスランの安否を確認する手段は無い。

不吉な考えから、眠りの中へと逃げ込むしかなかった。



***



議長に聞かされて初めて、アスランは連合がまたも核攻撃を行ったと知る。

耳を疑った彼に、議長はモニターをつけてプラントで放映されている報道を見せた。

事実上の開戦となったそれを、アスランは信じられない思いで聞く。

これでは、最高評議会がどうなだめようとしても、プラント国民は納得できようはずもなかった。

だがそれでも、アスランは戦争回避への努力を頼むことしか出来ない。

もう2度と、あんな戦いなど繰り返したくは無かった。

そんな彼に、議長はやはりそれが困難な道であると言う。



「だが、嬉しいことだよ。

 こうして君が来てくれた、というのがね。

 一人ひとりのそういう気持ちが、必ずや世界を救う。

 私はそう信じているよ」

「・・・はい」

「だからその為にも、我々は今を踏み堪えねばな」



議長がそう言った時、モニターから信じられない声が響いた。



「皆さん、私はラクス・クラインです」



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