no title - 56


キラは女の子です


「キラさんは、民間人です」



マリューとしては、誤解が生じて不用意な言葉がキラに向けられるのは避けたい。

艦橋を離れ、マリューはタリアとともに、艦長室に移動していた。



「確かに、彼女は軍人には見えないわね。

 だけど、モビルスーツの操縦が出来る民間人というのはどうかしら?」



キラの言動は軍人らしくはない。

軍人としての教育も訓練も受けては無いのだから当然だ。

それについてはタリアも認めたが、しかし同時に不審な点を指摘する。



「誰が、そんなことを?

 モビルスーツなんて」

「彼女は、ザクで議長をミネルバまで送ってくれたのよ。

 お聞きになっていない?」



特に隠すことでもないと、タリアは議長から聞いたあの時の経緯を話した。

聞かされたマリューは額に手を当て、キラさん、と小さく呟く。



「議長を庇って怪我を負った彼女を、疑いたくはないけれど。

 私は、艦とクルーの安全に責任があります」

「・・・わかりますわ。

 艦長としては、私的な感情で皆を危険にさらすわけにはいきませんものね」



同意しながらも、マリューは過去を思い出して唇を噛んだ。

キラがモビルスーツを動かせるようになかった切っ掛けは、マリュー自身である。

マリューが、キラを巻き込んだのだ。

だからこそ、このせいでキラをこれ以上を傷つけたくない。

マリューはタリアをじっと見つめ、慎重に話し始めた。



「キラさんは先の戦争で、心身ともに傷を受けたんです。

 ヘリオポリスの一件をご存知?

 彼女は当時、そこの工業カレッジの学生だった。

 ザフト軍と地球軍、そしてオーブとが、彼女を戦いに巻き込んだの。

 いろいろあって、モルゲンレーテに協力しなくてはならなくなって。

 戦争が終わって、やっと静かに暮らしていたのに。

 まさか初めて行ったプラントで、またも同じことの繰り返しだなんて」

「彼女はオーブ軍のパイロットだったということ?」

「・・・いいえ。

 モビルスーツのシステム開発を、ね。

 だけど、今は関わっていません。

 戦後、このモルゲンレーテに来たのは、これが初めてのはずだし」



開発に携わったから、操縦も出来る。

しかし望んで出来るようになったわけではない。

だからキラへの言葉は気をつけて欲しいと、マリューはタリアに頼み込んだ。



***



「あ、艦長!」



艦橋に戻ったタリアとマリューを見て、アーサーが声を上げる。

その喜色に富んだ声と表情が、2人にキラの作業が順調に捗っているのだと伝えた。

話し出そうとするアーサーを手で止め、タリアはキラに歩み寄る。

キラも2人に気づき、振り返っていた。



「どう?」

「はい、とりあえずは終わりました」

「・・・もう!?」

「とりあえず、ですけど。

 一応、システムは繋がりました。

 あとは実際に動かして確認してもらえば」

「そう。

 それじゃあ、明日も来てくれるのかしら?」

「それは・・・」



戸惑ったように、キラはマリューを見る。

マリューはそれに頷き、タリアに向かってきっぱりと断った。



「キラさんが終わったと言うなら、これまでです。

 まだ問題があるようなら、その時に改めてお願いすることにします。

 それならいいわよね、キラさん?」

「はい」



マリューに問われ、キラはこくりと頷く。



「でも、・・・まぁ、そうね。

 アーサー、それでいい?」

「はい?

 あ、はいはい。

 大丈夫だと、思います」

「・・・ならいいわ。

 ありがとう、キラさん。

 ご協力に感謝するわ」

「いえ、お役に立てたなら良かったです。

 それで、あの、ちょっと訊いてもいいですか?」



ためらいがちなキラの申し出に、タリアが目で先を促した。



「また戦争が起きると思いますか?」

「・・・それは私にはどうとも言えないわね。

 でも、デュランダル議長は戦争回避に努力なさってるわ、きっと」

「議長が・・・」



唐突なキラの問いへの冷静なタリアの返答に、キラは行動力の有る議長を思い起こす。

そしてその彼のもとへと向かったアスランを想い、祈るような気持ちで視線を空へと向けた。



*** next

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