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キラは女の子です | ||
「キラさんは、民間人です」 マリューとしては、誤解が生じて不用意な言葉がキラに向けられるのは避けたい。 艦橋を離れ、マリューはタリアとともに、艦長室に移動していた。 「確かに、彼女は軍人には見えないわね。 だけど、モビルスーツの操縦が出来る民間人というのはどうかしら?」 キラの言動は軍人らしくはない。 軍人としての教育も訓練も受けては無いのだから当然だ。 それについてはタリアも認めたが、しかし同時に不審な点を指摘する。 「誰が、そんなことを? モビルスーツなんて」 「彼女は、ザクで議長をミネルバまで送ってくれたのよ。 お聞きになっていない?」 特に隠すことでもないと、タリアは議長から聞いたあの時の経緯を話した。 聞かされたマリューは額に手を当て、キラさん、と小さく呟く。 「議長を庇って怪我を負った彼女を、疑いたくはないけれど。 私は、艦とクルーの安全に責任があります」 「・・・わかりますわ。 艦長としては、私的な感情で皆を危険にさらすわけにはいきませんものね」 同意しながらも、マリューは過去を思い出して唇を噛んだ。 キラがモビルスーツを動かせるようになかった切っ掛けは、マリュー自身である。 マリューが、キラを巻き込んだのだ。 だからこそ、このせいでキラをこれ以上を傷つけたくない。 マリューはタリアをじっと見つめ、慎重に話し始めた。 「キラさんは先の戦争で、心身ともに傷を受けたんです。 ヘリオポリスの一件をご存知? 彼女は当時、そこの工業カレッジの学生だった。 ザフト軍と地球軍、そしてオーブとが、彼女を戦いに巻き込んだの。 いろいろあって、モルゲンレーテに協力しなくてはならなくなって。 戦争が終わって、やっと静かに暮らしていたのに。 まさか初めて行ったプラントで、またも同じことの繰り返しだなんて」 「彼女はオーブ軍のパイロットだったということ?」 「・・・いいえ。 モビルスーツのシステム開発を、ね。 だけど、今は関わっていません。 戦後、このモルゲンレーテに来たのは、これが初めてのはずだし」 開発に携わったから、操縦も出来る。 しかし望んで出来るようになったわけではない。 だからキラへの言葉は気をつけて欲しいと、マリューはタリアに頼み込んだ。 *** 「あ、艦長!」 艦橋に戻ったタリアとマリューを見て、アーサーが声を上げる。 その喜色に富んだ声と表情が、2人にキラの作業が順調に捗っているのだと伝えた。 話し出そうとするアーサーを手で止め、タリアはキラに歩み寄る。 キラも2人に気づき、振り返っていた。 「どう?」 「はい、とりあえずは終わりました」 「・・・もう!?」 「とりあえず、ですけど。 一応、システムは繋がりました。 あとは実際に動かして確認してもらえば」 「そう。 それじゃあ、明日も来てくれるのかしら?」 「それは・・・」 戸惑ったように、キラはマリューを見る。 マリューはそれに頷き、タリアに向かってきっぱりと断った。 「キラさんが終わったと言うなら、これまでです。 まだ問題があるようなら、その時に改めてお願いすることにします。 それならいいわよね、キラさん?」 「はい」 マリューに問われ、キラはこくりと頷く。 「でも、・・・まぁ、そうね。 アーサー、それでいい?」 「はい? あ、はいはい。 大丈夫だと、思います」 「・・・ならいいわ。 ありがとう、キラさん。 ご協力に感謝するわ」 「いえ、お役に立てたなら良かったです。 それで、あの、ちょっと訊いてもいいですか?」 ためらいがちなキラの申し出に、タリアが目で先を促した。 「また戦争が起きると思いますか?」 「・・・それは私にはどうとも言えないわね。 でも、デュランダル議長は戦争回避に努力なさってるわ、きっと」 「議長が・・・」 唐突なキラの問いへの冷静なタリアの返答に、キラは行動力の有る議長を思い起こす。 そしてその彼のもとへと向かったアスランを想い、祈るような気持ちで視線を空へと向けた。 *** next |
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