no title - 55


キラは女の子です


「・・・そんなに、状況は悪いんですね」

「代表も、頑張っているという話だけど」



問い、というよりも確認するような口調のキラのつぶやきに、マリューも低い声で応える。

今、世界の関心は、地球への被害がコーディネイターによるものだということに向いていた。

どう入手したものか、ザフト軍のモビルスーツであるジンがユニウスセブンに細工をする映像がメディアに流れている。

それを見れば、誰でも犯人がコーディネイターだと判断するだろう。

逆ならばともかく、ザフト軍の、ひいてはコーディネイター用のモビルスーツはナチュラルには扱えないのだ。

一部では、既にプラントへの敵意を剥き出しにしたコメントもある。

そして時が進めば、さらにそれは増えることは、誰の目にも明らかだった。



「また、・・・が起こるんですか?」

「・・・キラさん。

 それは、わからないとしか言えないわね」



キラが言葉にしなかったそれを読み取り、マリューは痛ましげに彼女を見る。

唇を引き結び、その手は硬く握られていた。



「でも、その可能性があると判断したんですね。

 大西洋連邦が、オーブを巻き込むと」

「キラさんっ」



マリューが強く呼びかけて、キラの口を噤ませる。

はっとしてキラが見ると、マリューは目配せでメイリンを示していた。

メイリンは、目を丸くしてキラ達を見ている。



「可能性は、可能性よ。

 いつだって、どんな可能性も否定することはできないでしょう?」

「・・・ええ、そうですね」



軽い口調に戻したマリューに、キラも穏やかに頷いた。

ここで、ミネルバのクルーにオーブへの不信感を抱かれては困る。

キラもマリューも、政府がどうするかなど、憶測しか言えないのだ。



***



艦橋に現れたキラに、そこにいたクルーの誰もが驚きを表す。

艦長のタリアまでがそうであるのを見て取り、キラは首を傾げた。



「マリューさん、ここから通信して来ましたよね?」

「うふふっ。

 そうなんだけどね。

 自宅への通信、ってことで遠慮してくれたのよ」

「・・・マリューさぁん」



彼女はキラとここのクルー達が既知であると承知の上で、わざわざ知らせなかったのだとキラにもわかる。

楽しそうなマリューに、キラは呆れたように息を吐く。

そうして視線をタリアへと戻した。



「先日は、お礼も言わずに失礼しました」



ぺこりと頭を下げたキラに、タリアは首を振る。



「代表から、丁重な言葉をいただいているわ。

 あなたの分もね。

 でも、・・・あなたは代表の秘書だと聞いていたのだけど?」

「そうです」

「なら、今は忙しいのじゃなくて?」

「・・・私は、あくまでもプライベートな部分だけで。

 政務には、一切関わっていないんです。

 現在の状況と、代表の心遣いで、今は休暇をとらせていただいています」

「・・・そう。

 だけど」



タリアの視線が、マリューへと移った。

問いかけを含んだそれに、マリューはにこやかに答える。



「彼女は、優秀な技術者でもあります。

 プログラミングでは、彼女以上の者はモルゲンレーテにもいないと思いますわ」

「マリューさんっ」

「・・・それは、マリアさんのことなのかしら?」



言い切るマリューに慌てて止めようとしたキラは、タリアの言葉に顔を強張らせた。

その顔は、タリアへの雄弁な答えとなっている。

気づかずに硬直するキラの肩を、マリューはポンと叩いた。

ビクンとして顔を向けてくるキラに、大丈夫、と耳元でささやく。



「家族には、そう呼ばれているんです。

 ところで、作業に入らせていただいて、よろしい?」



***



マリューとアーサーの2人が、キラの両脇についていた。

彼らからの説明を受けながら、キラの手がキーボードの上を素晴らしいスピードで動く。

モニター上では、プログラムが目にも留まらぬ速さでスクロールし、ウィンドウが次々と開いたり閉じたりしていた。

そんな彼女の仕事ぶりに、警戒して監視するつもりだったアーサーはどうしたものかと困って、タリアに視線で問う。

これではキラが何かを仕掛けても、アーサーにはわからないからだ。

反対にマリューはキラの横の椅子に座り、艦外で作業している部下たちと打ち合わせをしたりしている。

キラの作業に、マリューは何の不安も抱いてはいないし、手伝うことも出来ないと知っていた。



「マリアさん、ちょっといいかしら?」

「え?あ、はいはい」



タリアの声に、マリューは修理状況が表示されているモニターに向けられていた意識を切り替える。

くるりと椅子を回し、キラの後ろに立っていたタリアと向き合った。



「彼女、コーディネイターなのよね」

「ええ、そうですわ。

 それが、なにか?」

「・・・私は専門外なんだけど。

 この艦の技術者達は、優秀なの。

 オーブの技術力は評価しているけど・・・。

 彼女がただの秘書というのは、不思議ね」



身近に交わされている会話は、作業に集中しているキラの耳には届いていない。

そのことに安堵の息を漏らし、マリューは静かに立ち上がった。



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