no title - 54


キラは女の子です


「あの、造船課の、えぇと、マリア・・・」

「ああ、はいはい。

 聞いています。

 キラ・ヤマトさんですね」



キラの提示したIDカードを確認し、受付に座る女性の1人が立ち上がる。

キラの前まで来ると、手に持っていたパスを差し出した。

身に付けるように言われ、キラは長い紐に首を通す。



「社内にいる限り、必ず身に付けておいてください。

 また、場所によっては再度のID確認が必要な場合もございます。

 それと、パスの有効期間は1週間となっております。

 但し、退社時には受付に戻し、来社時にまた受け取ってください」

「わかりました」

「それでは、ご案内いたします」



***



案内役が途中で2度も代わり、最後はマリューの部下だという男性だった。



「キラさん。

 来て下さってありがとう」



ミネルバの搭乗口近くに待っていたマリューは、キラを目にするなり顔を輝かせる。

彼女はキラの背に手を回し、あっという間にキラをミネルバへと連れ込んだ。

既に見慣れた艦内を目にし、思わずキラの足が止まる。



「・・・キラさん?

 あの、やっぱり、イヤかしら?」

「え?

 あ、いえ」



心配そうに問いかけられ、キラはハッとして首を振った。

歩き出しながら、自分から軍艦に乗り込むなんてもうないと思っていたので、と言い訳をする。



「でも、この艦には、助けられましたから。

 私で出来ることでしたら、お手伝いさせてもらいます」

「そう?

 ・・・でも、無理はしないでね」



お願いした私が言うのもなんなんだけど、と。

肩を竦めるマリューに、キラは素直に頷く。



「無理はしません。

 ですけど、・・・メイリンさん?」



マリューがキラを呼び出した理由を訊こうとしたその時、前方から1人の女性兵士が駆け寄ってきた。

頭の横で揺れる赤いツインテールに、キラは彼女の名を呟く。



「マリアさんっ。

 艦内を1人で歩き回らないでくださいっ」

「ああ、ごめんなさいね。

 ちょっと急いでいたものだから。

 だけど、アーサーさんには言って来たわよ」

「・・・そうなんですか?」

「ええ。

 まぁ、作業に夢中だったけどね」



正確には、エラーを繰り返すそれに、だったけれど。

敢えて口にしなかったマリューに、同じことを考えていたメイリンも、小さくため息を吐いた。



「でもほら、頼りになる助っ人が来てくれたから」

「・・・キラさん?」

「こんにちは、メイリンさん」

「どうしてまた、ここに?

 もしかして、アスハ代表も来たんですか?」

「ああ、いえ。

 今は休暇中です」

「キラさんは私が呼んだの」



話は歩きながらね、と2人の背をマリューが押す。

それに従いながら、メイリンが不思議そうにキラを見ていた。

キラもその視線を感じながら、困ったようにマリューを見つめる。



「マリューさん・・・」

「大丈夫よ。

 キラさんの身元がはっきりしているってことなんだから」



そうだろうか、とキラは疑問に思った。

確かに、このオーブの代表たるカガリの秘書であることは、この艦では周知の事実ではある。

彼女と血のつながりがあることも、話してあった。

だから、キラを危険人物とは思わないだろうが、しかし今度は別の心配がある。



スパイ、とか思われたりしないかな?



そんなキラの考えを読み取ったのか、マリューはキラににっこりと笑った。



「このままじゃ、艦の航行に支障があるかもしれないの。

 だけど、キラさんの力があれば、きっと上手くいくわ」

「・・・根拠が」

「ちょっと修理不能な機器があってね。

 オーブ製のを仮付けしたのよ。

 だけど、・・・わかるでしょう?」



戦時中、オーブ製のアークエンジェルに、ザフト製の機器を繋いだことがある。

キラはそのシステム変更全てを、任されてしまったのだ。

微かに頷くキラに、さらにマリューは続ける。



「キラさんも、ここ数日の報道を見たと思うけど。

 この艦は、万全の状態で送り出してあげたいの」



キラはマリューの言いたいことを察し、俯いた。



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