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キラは女の子です | ||
「キラァ」 「・・・っ」 はっと我に返って、いつの間にか横に立っている小さな女の子を見下ろす。 キラはベランダから海を眺めていたのだ。 「なぁに?」 「カリダさんが、呼んでるよ」 その子に視線を合わせるために膝を床についたキラは、その言葉に顔を室内へと向ける。 そこに、こちらへと歩み寄ってくるカリダの姿を認め、立ち上がった。 「母さん・・・」 「キラ。 マリアさんから通信が入っているわよ」 「マリアって、・・・マリューさんから? いったい」 「キラァ、人を待たせちゃいけないんだよぉ」 不思議そうに首を傾げるキラに、下から子供が注意する。 そんな2人の様子をカリダは微笑ましく思いながら、そうね、と子供に頷いた。 「あ、うん。 行ってくる」 最後に子供にありがとうと微笑み、早足で歩き出す。 その後姿を、笑顔を消して見送るカリダに、女の子は訊いた。 「キラ、なにを見ていたのかなぁ?」 「海、でしょう?」 「海はぁ、浜辺の方が近いよぉ。 ここ、よく見えないもん」 「ふふ、そうねぇ」 カリダは少女を抱き上げる。 ベランダの柵が邪魔で、小さな子供では海が見づらいのだ。 「ほら、こうすれば見えるでしょう?」 「・・・ほんとだっ」 子供の無邪気さにカリダにもまた自然に微笑む。 だがやはり少しばかり顔を曇らせ、キラの入っていった部屋へと視線を向けた。 *** 子供達は家の中で走らないように言い含められているので、どんなに急いでいても、歩くしかない。 「お待たせしましたっ」 通信室でモニターに映ったマリューを見て、キラはまず、そう口にした。 待たせたことは間違いなく、まして緊急の用件だろうと推測できる。 今まで、マリューが仕事中に連絡を入れてきたことなどないからだ。 「なにか、あったんですか?」 「あったといえば、あったかな。 ああ、でも、そんなに心配しないで。 別に誰かになにかあったとかじゃないのよ」 「そう、なんですか?」 「ええ、そうよ。 ・・・ごめんなさいね、慌てさせちゃったみたい」 「あ、いえ。 私が勝手に考えすぎちゃっただけで」 自分の先走りにちょっと顔を染め、だがその目がマリューの後ろに映るそれに留まる。 「そこは・・・」 「やっぱり、わかるわよね。 そうよ、今ね艦橋にいるの。 最初は外装の修理だけ、って話だったんだけどね。 ちょっとばかり事情が変わったのよ」 マリューが今いるのは、キラも既によく見覚えた、ミネルバの艦橋だった。 「それでね、キラさん。 ちょっと手伝ってもらえないかしら」 「私が? 私は、でも」 「お願い。 私たちでなんとか出来れば良かったんだけど。 どうしても、うまくいかないの」 「だけど」 「ね、お願い。 詳しくは、こちらに来てもらってから説明するわ」 「そん」 な、と言う前に、早口にお願いと繰り返されて通信が切られる。 キラはしばし黒くなったモニターを無言で見つめ、はぁと大きく息吐いた。 「私、モルゲンレーテの人間じゃないんですよ、マリューさん・・・」 珍しく強引なマリューの様子から、笑顔の陰でかなり切羽詰っているのだろうと推測できる。 以前のキラなら、しかし絶対に受けなかった。 そもそもマリューが、以前のキラにこんな話を持ち出すこともありえない。 なにしろキラは、そのモルゲンレーテに近寄ることも避けていたのだ。 だがマリューも、キラの意識に変化が起こっていることを見て取った1人なのだろう。 少なくともキラ自身、このマリューの依頼をなんとしても断ろうとまでは思えなかった。 *** next |
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