no title - 53


キラは女の子です


「キラァ」

「・・・っ」



はっと我に返って、いつの間にか横に立っている小さな女の子を見下ろす。

キラはベランダから海を眺めていたのだ。



「なぁに?」

「カリダさんが、呼んでるよ」



その子に視線を合わせるために膝を床についたキラは、その言葉に顔を室内へと向ける。

そこに、こちらへと歩み寄ってくるカリダの姿を認め、立ち上がった。



「母さん・・・」

「キラ。

 マリアさんから通信が入っているわよ」

「マリアって、・・・マリューさんから?

 いったい」

「キラァ、人を待たせちゃいけないんだよぉ」



不思議そうに首を傾げるキラに、下から子供が注意する。

そんな2人の様子をカリダは微笑ましく思いながら、そうね、と子供に頷いた。



「あ、うん。

 行ってくる」



最後に子供にありがとうと微笑み、早足で歩き出す。

その後姿を、笑顔を消して見送るカリダに、女の子は訊いた。



「キラ、なにを見ていたのかなぁ?」

「海、でしょう?」

「海はぁ、浜辺の方が近いよぉ。

 ここ、よく見えないもん」

「ふふ、そうねぇ」



カリダは少女を抱き上げる。

ベランダの柵が邪魔で、小さな子供では海が見づらいのだ。



「ほら、こうすれば見えるでしょう?」

「・・・ほんとだっ」



子供の無邪気さにカリダにもまた自然に微笑む。

だがやはり少しばかり顔を曇らせ、キラの入っていった部屋へと視線を向けた。



***



子供達は家の中で走らないように言い含められているので、どんなに急いでいても、歩くしかない。



「お待たせしましたっ」



通信室でモニターに映ったマリューを見て、キラはまず、そう口にした。

待たせたことは間違いなく、まして緊急の用件だろうと推測できる。

今まで、マリューが仕事中に連絡を入れてきたことなどないからだ。



「なにか、あったんですか?」

「あったといえば、あったかな。

 ああ、でも、そんなに心配しないで。

 別に誰かになにかあったとかじゃないのよ」

「そう、なんですか?」

「ええ、そうよ。

 ・・・ごめんなさいね、慌てさせちゃったみたい」

「あ、いえ。

 私が勝手に考えすぎちゃっただけで」



自分の先走りにちょっと顔を染め、だがその目がマリューの後ろに映るそれに留まる。



「そこは・・・」

「やっぱり、わかるわよね。

 そうよ、今ね艦橋にいるの。

 最初は外装の修理だけ、って話だったんだけどね。

 ちょっとばかり事情が変わったのよ」



マリューが今いるのは、キラも既によく見覚えた、ミネルバの艦橋だった。



「それでね、キラさん。

 ちょっと手伝ってもらえないかしら」

「私が?

 私は、でも」

「お願い。

 私たちでなんとか出来れば良かったんだけど。

 どうしても、うまくいかないの」

「だけど」

「ね、お願い。

 詳しくは、こちらに来てもらってから説明するわ」

「そん」



な、と言う前に、早口にお願いと繰り返されて通信が切られる。

キラはしばし黒くなったモニターを無言で見つめ、はぁと大きく息吐いた。



「私、モルゲンレーテの人間じゃないんですよ、マリューさん・・・」



珍しく強引なマリューの様子から、笑顔の陰でかなり切羽詰っているのだろうと推測できる。

以前のキラなら、しかし絶対に受けなかった。

そもそもマリューが、以前のキラにこんな話を持ち出すこともありえない。

なにしろキラは、そのモルゲンレーテに近寄ることも避けていたのだ。

だがマリューも、キラの意識に変化が起こっていることを見て取った1人なのだろう。

少なくともキラ自身、このマリューの依頼をなんとしても断ろうとまでは思えなかった。



*** next

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