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キラは女の子です | ||
「状況は、かなり悪い」 「・・・そんなに?」 キラを助手席に乗せ、アスランは車を走らせる。 向かうのは、マリュー達の家だ。 道々、アスランがキラに話すその声は暗い。 「オーブの被害は他の地域に比べると、それでも小さいようだけどな。 ・・・既に、あの落下が意図的なものだと報道されてるんだ」 「もう!? どうして!?」 「・・・わからない。 だが、今はまだいい。 いや、いいという言い方はまずいか・・・」 「犯人がコーディネイターだと知れれば・・・」 キラはその先を、口にするのが躊躇われた。 このことが、世界の情勢に悪影響を及ぼすことは間違いない。 問題はそれが、どこまで発展してしまうかだった。 先の戦争から、たったの2年。 ナチュラルとコーディネイターの確執が、無くなったわけではない。 戦争による被害を受けたその記憶が、人々から消えたわけでもないのだ。 ほんの小さな切っ掛けが火種を生むだろう。 今度のことは、火種となるに十分な要素を含んでいた。 それを消そうとする人もいれば、煽って大きな炎にしようとするものだっているかもしれない。 あの人のように・・・。 キラの脳裏に浮かぶのは、最後まで世界そのものへの恨みと憎しみを叫んでいた男だ。 彼女が生身で対峙した相手。 キラ自身の出生の秘密を突きつけた、自らの出生を呪っていた、ラウ・ル・クルーゼ。 彼が語ったことは、結局キラの胸に閉じ込められたままだ。 なにもなかったように。 彼女がいくつもの命を奪った事実とともに、キラはそれを記憶の奥底に沈めたのだ。 それが、連鎖的に蘇り、キラの胸を締め付ける。 すっかり黙り込んでしまった彼女に、アスランは小さく呟いた。 「今、出来ることは何だろうな・・・」 *** 「キラァ」 「アスランッ」 「アレックスだよっ」 「ええーっ、なんでだよぉ」 「キラ、お帰りなさぁいっ」 「え?どこ行ってたの?」 玄関先に止められた車の音に、家から子供たちが飛び出してくる。 降り立った二人に、わらわらとまとわりついてきた。 無邪気に懐いてくれる彼らに、キラとアスランの顔が自然に綻ぶ。 お帰り、と言っても、二人とも彼らと同居していたわけではなかった。 戦後しばらくはそうしていたが、今はカガリの邸宅に部屋をもらっている。 ・・・仕事の都合というのもあるが、カガリの強い希望があってのことだ。 それでも、たまの休みには彼らの元で過ごすのも当たり前になっている。 そして今も子供達がキラとアスランを迎える時にお帰りと言うのは・・・。 「お帰りなさいませ。 キラ、アスラン。 ご無事なようで、安心しましたわ」 柔らかな笑顔で、ゆっくりと歩み寄ってくるラクス。 彼女が一貫して、お帰りなさいと言い続けるから子供達も嬉しそうに繰り返すのだった。 ラクスの言い分では、二人は自分たちの家族だから、となる。 「ラクスも、・・・皆も怪我とかしなかった?」 「平気っ」 「みんなで、秘密の部屋に入ったんだっ」 「でも、お家がなくなっちゃったの」 「新しいお家が出来るまで、ここにいるんだってっ」 「キラもいてくれるの?」 寂しそうに俯いた子供が、キラの手を握っておずおずと訊いた。 彼女の滞在を望むその子に、キラはなんと答えたものかとためらう。 その横で、アスランが不意に膝を折った。 子供の頭に手を載せる。 「そうだよ。 キラはしばらくここに住む」 その言葉を即座に否定しようとするキラは、アスランに目で止められた。 子供達は喜び、ラクスは心配そうに二人を見つめる。 「アスランはぁ?」 「俺は・・・、ダメなんだ。 ちょっとまた、出かけなくちゃならなくてね」 「そうなの? じゃあ、キラ、寂しいね」 まだ幼い子供に、同情するように見上げられ、キラは頬を赤く染めた。 素直なその言葉は、彼女の心情を言い当てている。 もちろんそれだけではないが、否定することも出来なくて口ごもった。 そんなやりとりを見て、アスランは小さく笑う。 「キラは寂しがりだからね。 みんなで、遊んであげてくれよ」 「うんっ」 「わかったぁ」 「まっかせてっ」 一斉に頷いた子供達は、キラの両腕を掴んで駆け出した。 *** next |
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