no title - 48


キラは女の子です


「マルキオ導師の家は、津波で流されたそうだ」

「え・・・!?」



驚いて身を起こそうとしたキラを、アスランはそっと押さえる。

ミネルバの入港した場所から近かった軍施設に二人はいた。

ユニウスセブン落下の被害状況を知るのに都合が良かったことと、キラを休ませるために。

本人は平気だと言っていたが、アスランには通じなかった。

情報を集める間に休んでいるようにとキラを部屋に押し込んでおいたのである。

1人になったキラは、やはり体が休息を欲したのか、腰を下ろしたベットにパタリと横になっていた。



「でも、皆無事だ」

「ほんと!?」

「ああ。

 今は、マリューさん達の暮らす家に同居しているって」

「母さんやラクスも?」

「もちろん。

 ・・・どうする、キラ?

 これから、会いに行くか?」



アスランの指が、キラの目元をそっと拭う。



「泣きたいなら、我慢しなくていい。

 俺に言いたくなければ、話せる人のところへ行こう」



微笑んで離れていくその手を、キラは咄嗟に掴んだ。

なに?と首を傾げるアスランを見上げ、ゆっくりと起き上がる。

今度はアスランも止めなかった。



「私が彼の、シンの家族を殺したの」

「・・・そう?」

「フリーダム、見たって」

「そう」

「守らなくちゃいけない人達だったはずなのに・・・っ」

「キラ」



静かな、しかし従わせる力を持ったその声に、キラは逸らしていた目をアスランに合わせる。



「悔やんでも、過去は変わらない。

 俺たちは、その時その時、最善と思った道を歩いてきた。

 後から、間違いだったと気づいたりもした。

 だけど、一つが間違いだからと全てを否定しちゃいけない。

 ・・・そうだろう?」



キラはアスランが、自分に言い聞かせているような感じがした。

なんでだろうと考えて、やっと思い出す。



「アスラン・・・」

「それにキラが殺したと決まったわけじゃないだろう?」

「・・・私、まだ避難が済んでないって認識してなかった。

 それに、島の傍での戦闘も覚えがあるの。

 だから、・・・だから、シンがフリーダムを見たなら、そうなのよ。

 その上、私は逃げてたんだもの。

 この手で、たくさんの命を奪ってきたそのことから。

 アスランやカガリが、平和のためにずっと努力しているその間も」

「だけど、結局その平和は、崩される。

 父上のために」

「それは違うわ!」

「ああ、そうだ」

「・・・アスラン?」



否定したキラに、あっさりと頷き返すアスランを、キラは怪訝そうに見た。



「俺にだって、わかってるさ。

 原因となった憎しみは、彼ら自身のものだ。

 だけど、彼らの憎しみを増長させた責任は、父上にある。

 そして、父上を諌められなかった俺にも」

「アスラン、だけど」

「だからこそ、俺は出来ることをする」



話しながら、アスランは何かを決意したらしい。

それが何かはわからないが、キラの胸が騒いだ。

アスランが、いなくなりそうな気がしてしまう。



そんなはず、ないよね?

アスランは、私の傍にいてくれるって・・・。



キラはずっと握っていたアスランの手を離した。

ベットの上に膝立ちになって伸び上がり、中腰になっていたアスランに抱きつく。



「わっ!?

 ちょ・・・っ、キラ!?」



不安定な体勢で首にキラをぶら下げるような形になったアスランは、堪えきれずに倒れこんだ。

キラを押しつぶしてしまい、慌てて両肘をついて上体を浮かす。

キラも驚いて手の力が緩み、両腕をアスランの首の後ろへとまわした状態で彼と見つめ合った。



「キラ?」

「アスラン、ここにいるよね?」

「・・・キラ」

「私と、ずっといてくれるんでしょう・・・?」

「キラ、それは」



はっきりと言葉を返してくれないアスランに、キラは目を伏せる。



「アスランは、カガリの補佐をするんでしょう?」

「・・・俺は、この国の政治に直接関わることはできない。

 知ってるだろう?」



アスランが、パトリック・ザラの息子であることは限られた人々にしか知られていなくても、彼がプラント出身であることは皆が知っていた。



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