no title - 47


キラは女の子です


「あ・・・」



いつもキラに気遣って歩調を合わせてくれるアスランには珍しく、カツカツと早足に進む。

その彼に引っ張られながら、きょろきょろと周りを見回していたキラの目が、赤い髪の少女兵士を捉えた。

やはり黙って艦を降りてしまうのが心残りだったキラは、嬉しそうに彼女を呼び止める。



「ルナマリアさん!」



ルナマリアは軍服のせいで、遠くからでもよく判別がついた。

キラに従って立ち止まざるをえなかったアスランは、そのルナマリアと連れ立っているうちの1人に目を留め、眉をひそめている。

そんな彼には気づかず、キラはアスランに握られた手を引き抜き、こちらを振り返ったルナマリアに駆け寄った。



「あら」

「あの、いろいろお世話になりましたっ」



礼を言うキラに、しかしルナマリアはひょいと肩を竦める。



「私は何もしてないですよ」

「でも、服を」

「それはメイリンです」

「・・・では、彼女にありがとうとお伝えいただけますか?」

「ええ」

「できれば、艦長さん達にも。

 私、すぐに降りなくちゃいけなくて。

 ご挨拶も行けなくて。

 皆さんにも、お礼申し上げます」



と、ルナマリアの背後に立っている人々に、キラは笑顔を向けた。

ルナマリアも彼らも、カガリを見送って戻る途中だったのである。

話しながら歩いていたところをキラにルナマリアが呼び止められ、なんとなくその場に一緒に残っていた。

既に全員、キラを見知っているメンバーではあったが、彼らは一様に驚きを顔に浮かべる。

ずっと緊張や不安に縛られていたキラが、初めて見せた心からの笑顔に、誰もが惹きつけられた。

そんな彼らの反応に、キラは戸惑う。



「あの・・・?」

「キラ。

 彼らもやっと休息できるんだ。

 俺たちも早く行かないと」

「え、あ、うん。

 じゃ、じゃあ、皆さん、お元気で」



アスランにまた手をとられ、キラは軽く頭を下げた。

そんな二人を、一つの声が呼び止める。



「おい!」

「え?」



振り返ったキラは、そこにシンを見つけた。

人を掻き分けて、ルナマリアの横まで来たらしい。

彼はやや、顔を横に向けていた。



「悪かったな」

「は?」

「よくわからないけど、俺が言ったなにかが、あんたに」

「シン」



言いかけた言葉が、アスランの強い声に遮られる。

口を噤んだシンが、しばしアスランと睨みあった。

そんな二人に挟まれ、キラは当惑気味に彼らを見比べる。

しかしその視線は、ふとシンで止まった。

じっと見つめるそれに気づいたのか、シンもキラを見る。



「あ・・・」



その赤い瞳を見て、キラは顔を強張らせた。

一瞬で、最後に彼と会った場面が、キラの脳裏に蘇る。

体の力が抜けかけ、後ろへとよろけた体を、アスランの腕が支えた。



「キラ?」



そっと優しく呼びかけられ、キラははっとする。

見上げた目がアスランのそれと合い、不思議と落ち着きを取り戻した。

ややぎこちなくではあったが、なんとか微笑む。

足に力を入れ、アスランの胸から身を起こした。

そして、怪訝そうな顔や心配そうな顔を見回して、改めて頭を下げる。



「すみません、失礼しました。

 シンも、教えられなくて、ごめんなさい。

 ・・・いつか」



***



彼らと別れ歩き出したアスランは、今度はいつものようにゆっくりと足を進めていた。

そのことが、キラに先ほどまでの急ぎようの理由を覚らせる。



シンと、顔を合わせなくてすむようにしてくれようとしたんだ・・・。



結局、キラがルナマリアを呼び止めたことで、アスランの気遣いを無にしてしまった。

彼はキラとシンの間にあった会話を知り、キラを守ろうとしてくれている。

今も、肩を抱いてくれているその手が、とても暖かかった。



「アスラン」

「なんだ?」

「・・・大好きよ」



唐突な言葉に、アスランはちょっと目を見張る。

が、すぐにその面は、キラの見慣れた、キラだけに向けられる笑みに彩られた。



*** next

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