no title - 46


キラは女の子です


「ん?どうした?

 顔が赤いぞ」



熱は無かったはずだが、と呟くライラに、キラはふるふると首を振る。

その陰りの無い様子に、ライラはアスランへと視線を流した。

彼はそれに答えるように、微かに首を振る。



「熱、無いですっ」

「・・・そうか。

 ならいいが。

 ああ、君が眠っている間に怪我を診たがな。

 もうほとんどいいようだ」

「はい、ありがとうございました」



ぺこりと頭を下げ、キラはまだ包帯に巻かれている腕にそっと触れてみた。



「じゃ、もう行きなさい」



***



医務室を出て少し歩いたところで、キラがぴたりと足を止める。



「キラ?」

「私なんで、医務室にいたの?

 それになんか、とってもお腹が空いてる気がする」



首を傾げるキラに、アスランは答えるのを躊躇った。

ライラも気づいたようだが、どうやらキラはシンとの話を覚えていないらしい。

単に記憶が混乱しているだけにしても、アスランとしては出来ればこのまま思い出さないで欲しかった。



「・・・キラは、倒れたんだよ」

「私、が・・・?」

「それと、キラは二食抜いてるからね」

「・・・は?

 え、ちょっと待って」

「この艦はもう、オーブに入港してる」

「嘘っ!?」

「ほんと。

 カガリはもう、降りたよ。

 首長達に出迎えられてね。

 俺たちもこのまますぐに降りないと」



事実を淡々と述べるアスランに、キラが慌てる。



「今すぐ!?

 えと、挨拶」

「ダメだよ」

「でもお世話」

「キラ。

 これは他国の軍艦だ。

 俺たちがいつまでもいて良い場所じゃない」



キラが、この艦で知り合った人たちに礼を言いたいと思っているのはわかった。

だがその中にシンも含まれるだろうことを考えると、アスランは頑として首を縦には振れない。



「えと、せめてライラさんに」

「今、ちゃんとありがとうって言ってきただろう。

 俺たちがいつまでも艦内にいては、乗降口で待っている兵士が気の毒だよ」

「・・・待ってる?」

「当然だろう。

 どこにも行き場の無い宇宙じゃないんだ。

 警戒されてしかるべきだろう」



ほら行くよ、と言うアスランに右手をとられ、キラは引かれるまま歩くしかなかった。

それでも気になるキラは、ちらちらと背後を見る。

そんな彼女の気を逸らそうと、アスランはぽつりと呟いた。



「でも、残念だったな」

「へ?何が?」

「キラが起きちゃったのが。

 ほら、あまり待たせたら悪いからね。

 キラを抱いて行ってあげようと思ってたんだよ」



悪戯っぽい笑顔を浮かべたアスランを、キラは一瞬ぽかんと見つめる。

それから彼の言うとおりの場面を思い浮かべ、頬を染めた。



「だから、もう少し眠っていて欲しかったな」

「と、とんでもないっ!

 イヤよ、そんな、恥ずかしいじゃないっ」

「そう?

 まぁ、キラはそう言うだろうと思ってね。

 一応、少し待ってみたんだ。

 カガリは不満そうだったけど」

「・・・カガリが?なんで?」

「そりゃ、キラを艦に残すのが心配だったんだよ。

 ああ、ここが危険だっていうんじゃないよ、もちろん。

 ただ、純粋に傍にいたいだけだろう。

 だけどキラが恥ずかしがると思って止めたんだ」



今度はキラの顔から血の気が引く。

恥ずかしいどころでは無いと思った。



カガリの出迎えの中を、アスランに抱かれて?



「先に行くように説得するのは、大変だったよ」



苦笑を含んだアスランの声に、カガリを納得させるのは大変だったろうと察せられる。

だから、キラは疲れたように答えた。



「・・・ありがとう」



*** next

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