no title - 45


キラは女の子です


「・・・キラ?」



閉じられた瞼が震えるのを目にし、アスランが優しく名を呼ぶ。

彼は眠り続けていたキラの枕元の椅子から立ち上がった。

ベットに手をつき、彼女を間近から見下ろす。

初めはぼうっと焦点の定まらない目をしていたが、何度か瞬きを繰り返し、キラとアスランの目が合った。



「・・・アスラン」

「おはよう、キラ」

「・・・おはよう」



まだ少し寝ぼけているのか、覇気の無い声で挨拶を返すキラ。

と、その顔が嬉しげに綻んだ。



「・・・どうしたの、キラ?」

「うん、あのね。

 綺麗だなぁ、と思って」

「何が?」

「アスランの顔」



言いながら、キラの右手がシーツから出て、アスランの頬に添えられる。

ほんとうに綺麗、と。

ため息を漏らしながらの言葉に、アスランがしばし固まった。

だがキラはそんなことはお構いなしに、その白い指先でアスランの顔をなぞる。



「・・・キラ、綺麗というのは、女性を指すんじゃないか?」

「そんなこと、ないよ。

 男とか、女とか関係なく、綺麗なものは綺麗。

 特にね、アスランの目が好き」

「キラの方が綺麗だよ」

「アスランの目が腐ってる。

 綺麗って言うのは」



言葉を切ったキラは、左手もシーツから出すと、両手でアスランの顔を挟んだ。

息が触れるほど引き寄せ、にっこりと微笑む。



「これ。

 初めて会ったときは、女の子かと思ったよ。

 あ、もちろんすぐにわかったけどね」



最後に慌てて付け加え、手を戻しながら顔を赤らめた。

そのまま、キラはアスランから、スッと視線を逸らす。



「あれ?」



横を向いたことで、キラの視界に味気ない無機質の壁が見えた。

気だるそうに上体を起こす。

視界を遮っていたアスランは、気配を察して既に退いていた。

部屋の中をぐるりと見回し、やがてキラの顔が曇る。



「・・・ああ、そっか。

 夢じゃなかったんだっけ。

 でも、なんでこの医務室に」



俯いて息を吐き、キラは横に立つアスランを見た。



「アスラン?

 どうしたの?」



彼は口元に片手をあて、顔を背けて、なにかをキラに差し出している。

顔つきが強張っていた。

キラは眉をひそめる。



「気分、悪い?

 大丈夫?」

「ちょっと待って!」



心配そうにベットから滑り降りようとしたキラを、しかしアスランが強く止めた。

そして顔をキラに向け、だが視線は合わせずに、手に持ったものをキラに押し付ける。



「いいから、起きられるならこれを着てくれ」

「着・・・って、やだ・・・っ」



アスランの言葉で、渡されたものが服だとわかり、ふと自分を見下ろしたキラは小さく悲鳴を上げた。

その服をぎゅっと胸元に抱きしめる。



な、なんで・・・!?



キラが身に着けているのは、肌触りの良い布でできたキャミソールだけだった。

薄地のそれは、下着を着けていない彼女の胸の形をしっかりとかたどっている。

恐る恐る目をアスランに向ければ、しっかりと背を向けてくれていた。



「いいか?」

「ま、待って、ちょっと」



慌てて服を広げ、素早く着込む。

顔を真っ赤にしたまま、キラはアスランにもういいよと言った。

その声を受けて振り向くアスランを、そっと見上げる。



「アス」



恥ずかしそうに呼びかけようとしたキラの言葉が、第三者の声に遮られた。



「起きたのかい?

 なら、早くこっちに来なさい」



キラはびっくりして声のした方を見ると、そこにはライラが入り口に手を掛けて立っている。

気が逸れたキラの背に手をあてて、アスランは医師に従った。



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