no title - 44


キラは女の子です


「シン」

「アスランさん・・・」



アスランに呼び止められ、シンと、並んで歩いていたレイとが足を止める。

どこか躊躇うように、シンはぎこちなく振り返った。



「少し、話ができないか?」

「・・・それは」



横に立つレイを、シンがちらりと見る。

レイは、迷う素振りのシンと真剣な顔つきのアスランとを見比べた。

その視線はシンで止まり、彼の肩を手のひらで軽く叩くと、無言で背を向ける。

レイが視界から消えるまでシンは見送り、もう一度ゆっくりとアスランへと向き直った。



「どこか、落ち着いて話せる場所はあるか?」



***



シンに案内されたのは、人気のない休憩室。

場所が悪く、あまり利用者がいないという。



「悪かったな。

 彼と、用事があったんじゃないか?」

「・・・いえ、たいしたことじゃないんで。

 それより、話ってのは?」



アスランは、シンをじっと見つめた。

以前感じた刺々しさを、今は感じない。

同じ戦闘を乗り越え、彼の中で何かが変わったのだろうとアスランは思った。



「・・・キラのことだ」

「・・・ああ。

 その、大丈夫だった、んですか?」

「まだ、薬で眠ってる。

 怪我も、元々のものだけだ。

 君が倒れこむのを助けてくれたそうだね。

 ありがとう」



アスランが頭を下げると、シンは慌てたように叫ぶ。



「やめてくれっ。

 べ、別にあんたに感謝されるほどのことじゃない、から・・・」

「キラは、彼女は俺の大切な存在だ。

 礼を言うのは当然だろう。

 そして」



言葉を切るアスランと、シンの目が合った。

途端、シンが息を呑む。

怖いほど真剣なその眼差しが、シンを怯ませたのだ。



「彼女を守る義務と権利がある。

 だから、キラを傷つけるものは許さない。

 ・・・君は何を話した?」

「・・・そ、れは」

「言うのを躊躇うようなことか?」



お前がキラを苦しめたのかと、アスランが問う。

それに、シンは慌てて首を振った。

硬直している場合ではない。



「お、俺は、何も言ってないっ」

「だが、キラは君と話していて」

「話はしたっ。

 したけど・・・」

「どんな話をしたんだ?」

「・・・モビルスーツ戦の経験があるって」



言いづらそうに口を開くシンに、アスランは無言で先を促した。



「最初は、あなたのことを聞いたんだ。

 それで、そういう話になって。

 オーブでの戦闘にもいたようなことを言ったから。

 だから、聞いたんだ」

「・・・何をだ?」

「フリーダムのパイロットのことさ」

「フリー・・・ダム、だと?

 なぜ、君がそんなことを知りたがる?」

「ザフトのパイロットなら、誰だって知りたいさ」



先の大戦で、活躍したモビルスーツ。

その戦闘能力についてはザフト軍内で語り草になっている。

だが、兄弟機であるジャスティスがこのアスラン・ザラの機体であることは有名なのに、フリーダムについては憶測が飛び交うばかりで、その情報は一切知られていなかった。

だからシンの言葉に嘘はないだろう。

しかし、だ。



「・・・それだけか?」



フリーダムの機体性能は高い。

しかしだからこそ、それを使いこなすにはさらに高い能力を必要とするのだ。

新人パイロット達が羨望や憧憬を持つのも無理はない。

けれど、シンの顔に浮かんだ感情は、そんなものではなかった。



「君は、フリーダムのパイロットを知って、どうしたいんだ?」

「・・・別に。

 いいでしょう、どうだって。

 どうせ、あなたも教えてくれないんだろうし」



シンは、プイと横を向く。

その頑なな横顔を見ながら、アスランは医師の話から想像したことが当たっているらしいと唇を噛んだ。



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