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キラは女の子です | ||
「ただの夢なら、いいがな。 ・・・実際にあったことなのだろう?」 ため息交じりの、確信を持ったライラの問い。 アスランの顔から、表情が消えた。 「モビルスーツを操れることを考えれば、答えは自ずと出る。 ・・・元ザフト兵の中にも最近多いんだよ。 大戦から、2年。 目標に突き進んだ戦時中や、やっと訪れた平和への喜び。 2年経って、心に余裕が出てきたと思うべきなのかね」 「キラは」 「ああ、待て。 私は、彼女の過去を暴きたいわけじゃない。 戦争とは、結局のところ、殺し合いだ。 私は医師で、実際の戦闘には関わってはいない。 しかし、直接手を下さないだけで、戦闘員と代わりはない。 軍医として軍艦に乗っていれば、同じだ。 君らパイロットも、私も人殺しなのさ」 淡々と述べるライラを、アスランはじっと見つめる。 表情には出さなかったが、彼は意外の念を禁じえなかった。 医師の話に内心で同意しながら、そっけなく返す。 「それで? 先生は何をおっしゃりたいのですか」 「・・・戦闘は、精神に負担を掛ける。 だから、軍人は心身ともに訓練されていなければならない。 しかしあの子は、そんな風には見えなかった。 それともオーブは、そんな訓練もしないのか?」 「キラは、軍人ではありません」 「今はね」 「・・・確かに、一時は軍に籍を置いていました。 但し、野戦任官です。 訓練など、受けたことなどあるはずがない!」 アスランの意外な言葉と、そして突然荒げた声に、ライラの目を見張った。 「そう・・・か。 なら、最悪だな」 まじまじとアスランを見た後、ライラは目を伏せる。 そしてやや躊躇いながら、言葉を続けた。 「シンに、謝っているように聞こえたんだよ。 もちろん、私の聞き違いかもしれないが。 だが、もしそうであれば」 「シン・・・に、キラが?」 「彼がオーブ出身なのは知ってるかね?」 「ええ。 家族がオーブで・・・と、えっ、まさか!?」 「わからない」 驚愕した様子のアスランに、ライラは首を振る。 「シンに、変わった様子はなかった。 だから、杞憂かもしれない。 ただ、君は知っておいたほうがいいと、私は思うのでね」 「もちろんです。 お話下さって、ありがとうございます」 *** キラの眠るベットの枕元に座り、アスランは彼女の髪を優しく撫でていた。 「キラ・・・。 力ずくで、オーブに置いてくれば良かったね」 そうすれば、キラがまたも傷つくことなどなかっただろうに。 そう思うと、アスランは悔やまれてならない。 キラは戦争を、過去の辛い想いを忘れようとしていたんだ。 逃げでしかなくても、心に負った傷を癒すには必要なことだった。 それなのに。 アーモリーワンでのことは、アスランにもヘリオポリスでのことを思い出させた。 キラだって同じだろうと思う。 まして、目の前で人が死んだと。 その上、アスランはキラを置いて出撃したのだ。 それでも、2年は無駄じゃなかったんだ。 アスランの予測よりも、キラの心は戻りかけている。 そう思った矢先に、これだ。 「もうじきオーブだ。 この艦を降りれば、もうシンに会うことはないさ」 正直に言えば、アスランには今も迷いがある。 キラのいる場所が、彼自身の居場所だ。 それは今も変わらないが、プラントの人々も彼の同胞であることに変わりない。 ましてあの、ジンのパイロットの言葉だ。 「眠り姫・・・か」 ふと、女医師がキラを指して言った言葉を思い出す。 薬で深い眠りについているキラの寝顔に、アスランがふわりと微笑んだ。 *** next |
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