no title - 43


キラは女の子です


「ただの夢なら、いいがな。

 ・・・実際にあったことなのだろう?」



ため息交じりの、確信を持ったライラの問い。

アスランの顔から、表情が消えた。



「モビルスーツを操れることを考えれば、答えは自ずと出る。

 ・・・元ザフト兵の中にも最近多いんだよ。

 大戦から、2年。

 目標に突き進んだ戦時中や、やっと訪れた平和への喜び。

 2年経って、心に余裕が出てきたと思うべきなのかね」

「キラは」

「ああ、待て。

 私は、彼女の過去を暴きたいわけじゃない。

 戦争とは、結局のところ、殺し合いだ。

 私は医師で、実際の戦闘には関わってはいない。

 しかし、直接手を下さないだけで、戦闘員と代わりはない。

 軍医として軍艦に乗っていれば、同じだ。

 君らパイロットも、私も人殺しなのさ」



淡々と述べるライラを、アスランはじっと見つめる。

表情には出さなかったが、彼は意外の念を禁じえなかった。

医師の話に内心で同意しながら、そっけなく返す。



「それで?

 先生は何をおっしゃりたいのですか」

「・・・戦闘は、精神に負担を掛ける。

 だから、軍人は心身ともに訓練されていなければならない。

 しかしあの子は、そんな風には見えなかった。

 それともオーブは、そんな訓練もしないのか?」

「キラは、軍人ではありません」

「今はね」

「・・・確かに、一時は軍に籍を置いていました。

 但し、野戦任官です。

 訓練など、受けたことなどあるはずがない!」



アスランの意外な言葉と、そして突然荒げた声に、ライラの目を見張った。



「そう・・・か。

 なら、最悪だな」



まじまじとアスランを見た後、ライラは目を伏せる。

そしてやや躊躇いながら、言葉を続けた。



「シンに、謝っているように聞こえたんだよ。

 もちろん、私の聞き違いかもしれないが。

 だが、もしそうであれば」

「シン・・・に、キラが?」

「彼がオーブ出身なのは知ってるかね?」

「ええ。

 家族がオーブで・・・と、えっ、まさか!?」

「わからない」



驚愕した様子のアスランに、ライラは首を振る。



「シンに、変わった様子はなかった。

 だから、杞憂かもしれない。

 ただ、君は知っておいたほうがいいと、私は思うのでね」

「もちろんです。

 お話下さって、ありがとうございます」



***



キラの眠るベットの枕元に座り、アスランは彼女の髪を優しく撫でていた。



「キラ・・・。

 力ずくで、オーブに置いてくれば良かったね」



そうすれば、キラがまたも傷つくことなどなかっただろうに。

そう思うと、アスランは悔やまれてならない。



キラは戦争を、過去の辛い想いを忘れようとしていたんだ。

逃げでしかなくても、心に負った傷を癒すには必要なことだった。

それなのに。



アーモリーワンでのことは、アスランにもヘリオポリスでのことを思い出させた。

キラだって同じだろうと思う。

まして、目の前で人が死んだと。

その上、アスランはキラを置いて出撃したのだ。



それでも、2年は無駄じゃなかったんだ。



アスランの予測よりも、キラの心は戻りかけている。

そう思った矢先に、これだ。



「もうじきオーブだ。

 この艦を降りれば、もうシンに会うことはないさ」



正直に言えば、アスランには今も迷いがある。

キラのいる場所が、彼自身の居場所だ。

それは今も変わらないが、プラントの人々も彼の同胞であることに変わりない。

ましてあの、ジンのパイロットの言葉だ。



「眠り姫・・・か」



ふと、女医師がキラを指して言った言葉を思い出す。

薬で深い眠りについているキラの寝顔に、アスランがふわりと微笑んだ。



*** next

Top
Novel 2


Counter