no title - 41


キラは女の子です


「フリーダムのせいで、あなたの家族が・・・?」

「そうだ」



震える声で、キラは確認するように訊く。

違って欲しいという思いのこもるそれは、だがあっさりと否定された。



「あの時は、どれがなんだか、わからなかったさ。

 だが、プラントに来て、アカデミーで機体について学んだ。

 ・・・フリーダム。

 あれがオーブを守るために戦ってたのも知った。

 でもオーブ軍に所属してはいなかった。

 ヤキン・ドゥーエの戦いで、活躍したことも。

 だけど、パイロットについては、わからなかった。

 どんなに調べても、だ。

 ・・・あんたがあの時一緒に戦っていたなら、知っているはずだろう?」



秘されているからには、それなりの理由がある。

関係者が口を噤んでいるのだ。

たとえ知っていてもキラがそう簡単に答えるとは、シンも思っていない。

しかし、やっと手の届くところにきたのだ。

絶対に口を割らせると、言葉に力が入る。

だが。



「戦闘中に、まだ避難していた?」



まったく聞いていなかったらしいキラの様子に、シンは眉を顰めた。

掴んでいた腕を放す。



「あの時、民間人の避難は済んでると思ってた。

 でも、犠牲者は出た。

 ・・・戦争を終わらせるのだと。

 際限なく殺し合う、あの戦争を。

 その為に、命が失われていくのを防ぎたくて、戦った。

 でも戦うほどに、人が死んで。

 その上、僕の、この手は・・・」

「お・・・い」



キラは広げた両の手のひらを、キラは虚ろに見つめた。

言葉をつむぎながら、彼女の頭は自分の考えでいっぱいになる。

様子がおかしいと気づいたシンの声も、届いていなかった。



「平和になったって、無かったことになるわけじゃ、ない。

 戦うことを止めたって、血に染まったこの手は、戻らないんだ。

 失われた命も、戻らな・・・い」



シンの前で、キラは糸が切れたように崩れ落ちる。

咄嗟に伸ばされたシンの腕が、辛うじて彼女の頭が床に打ち付けられるのを防いだ。



「おいっ。

 ・・・くそっ」



キラの意識が無いことを見て取ると、シンは彼女を抱き上げる。

そのまま医務室へと駆け出した。



***



「おい、誰かいないか!?」

「・・・なんだい、騒がしい」



無人の医務室に入って怒鳴るシンの声に、ライラが物憂げに髪をかき上げながら姿を現す。

と、彼の腕に抱えられた見覚えのある姿に、彼女は顔つきを改めた。



「どうした?

 また無理して出血でもしたのか?」

「気を失ってる」



ライラの指示に従い、シンはキラを診察台に横たえる。

キラの診察を始める医師は、カーテン越しに状況を聞いた。



「話をしていて、突然倒れたのか?」

「いえ。

 その前に、なんだか変だった・・・」

「どんな風にだ?」

「俺の声が聞こえていないみたいで。

 それで・・・、なんだか辛そうに話し出したんだ・・・っです」

「普通に話していいぞ。

 それで、何て言ったんだ?」

「・・・小さい声で、よくは聞こえなかった。

 ただ、僕は、って」

「僕?」

「女なのに、変だなって」

「・・・まぁ、珍しいがいないわけでもない」

「でもキラは、それまで私って言っていたから」



シャッと音を立てて、カーテンが開かれる。



「精神的なものだね。

 君との話がきっかけで、嫌な過去を思い出したのかもしれない」



何の話をしていたのか、と無言で問うライラから、シンは目を逸らした。

その横顔に視線を向け、ライラは嘆息する。



「とりあえず、手を貸しておくれ」



シンの手で、キラはまた奥の部屋に寝かされた。

薬で幾分よくなった顔色に、しかしシンは唇を引き結ぶ。

話を訊きたい気持ちに変わりはないが、しかしこんな風に彼女を苦しめたいわけでもなかったのだ。



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