no title - 38


キラは女の子です


「アスランが、無事でよかった」



アスランの部屋へと強引に入り込んだキラは、努めてニコリと笑む。

消沈した様子でベットに腰を下ろしたアスランは、腿に肘をのせて組んだ両手に額をあてていた。

その足元に、キラは膝をつく。



「それが、一番嬉しいの。

 地球への被害が減ったことよりも。

 こうして手の届くところに、あなたがいることが」



わざと明るい口調で話しかけても、アスランは返事をしなかった。

言葉を選びあぐね、キラも無理に浮かべていた笑顔を消す。



「ねぇ、アスラン。

 正確には、何があったの?

 私には、話せない?

 それとも、話したくないこと?」



じっと、静かに待った。

キラには、アスランが葛藤しているとわかる。

彼は、彼女を無視しているわけではなかった。

ちゃんと、キラの声はその耳に届いている。

どれだけ経っただろうか。



「・・・少し、待っててくれ」



搾り出すようなその声に、キラは口を開きかけ、だがすぐに閉じた。



アスランは、慰めが欲しいんじゃない。

ましてや、楽観的な意見なんて、求めてないよね。

・・・こんなアスラン、見たくない。

いつだって、自信をもって行動してる。

自信を裏付ける、努力を惜しまないことも、私は知ってる。

そのアスランが、こんなに。

こんな時、私には何ができるだろう・・・?



不思議と、キラの心は落ち着きを取り戻し始めている。

波立っていたそれが、アスランを前にして、なぜか穏やかになってきたのだ。

自分自身の不安にばかり向いていた意識が、アスランを想う気持ちへと。

大好きな、キラの大切なアスランが、目の前で苦しんでいるのだ。



「・・・それじゃあ、休もう。

 体を休めて、それから考えよう。

 アスランが、いつも私に言ってたことよ。

 疲れたままじゃ、頭もまわらないんだから」

「・・・そうだったな」

「そうよ。

 あ、食事もしないといけないんだったわよね」



とはいえ、さっきの今で、食事の用意がすぐにできるとも思えない。

出来たとしても、おそらくは混み合うことが予想された。

心身とも疲労の濃いアスランを、キラはそんなところに連れて行く気になれない。



じゃあ・・・と。



キラはすっくと立ち上がった。

アスランの傍を離れ、部屋の中を動き回る。

タオルやシーツ等の替えを確認し、さらには勝手にクローゼットも探った。

着替えを取り出し、顔を上げたアスランの膝に置く。

シーツ類はベットの上に。



「キラ?」



ぽかんと自分を見ているアスランに、キラは笑いかけた。

いつもと立場が逆転している。

落ち込むのはキラで、世話を焼くのはアスランの役目だったのだから。



「さぁ、アスラン。

 シャワーを浴びてきて。

 体をすっきりさせて、ぐっすり眠りましょ」



彼女はアスランの手を引いた。

力ずくで立たせようにも、キラの力では敵うわけが無い。

だが、アスランは彼女に引かれるまま、シャワーブースへと足を進めた。



「さ、入って。

 ・・・どうしたの?」



扉を開け、キラがアスランの手を離すと、逆にまた掴まれてしまう。

アスランが自分を見ていた。



「え・・・っと。

 入るの、イヤ?」

 

キラは、心配そうに訊く。

その彼女は、次の瞬間、力強くアスランの腕に抱きこまれた。

背がしなるような体勢で、キラの目にはアスランの肩越しに天井だけが映る。



「アスラン・・・」

「頼む。

 少しだけ、このまま」

「・・・うん」



両腕ごと彼の腕がまわっているため、キラから抱きつくこともできなかった。

アスランの片方の手が彼女の頭をも支えてくれているので、キラは体の力を抜く。

するとさらに、苦しいほど抱きしめられた。



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