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キラは女の子です | ||
「アスランが、無事でよかった」 アスランの部屋へと強引に入り込んだキラは、努めてニコリと笑む。 消沈した様子でベットに腰を下ろしたアスランは、腿に肘をのせて組んだ両手に額をあてていた。 その足元に、キラは膝をつく。 「それが、一番嬉しいの。 地球への被害が減ったことよりも。 こうして手の届くところに、あなたがいることが」 わざと明るい口調で話しかけても、アスランは返事をしなかった。 言葉を選びあぐね、キラも無理に浮かべていた笑顔を消す。 「ねぇ、アスラン。 正確には、何があったの? 私には、話せない? それとも、話したくないこと?」 じっと、静かに待った。 キラには、アスランが葛藤しているとわかる。 彼は、彼女を無視しているわけではなかった。 ちゃんと、キラの声はその耳に届いている。 どれだけ経っただろうか。 「・・・少し、待っててくれ」 搾り出すようなその声に、キラは口を開きかけ、だがすぐに閉じた。 アスランは、慰めが欲しいんじゃない。 ましてや、楽観的な意見なんて、求めてないよね。 ・・・こんなアスラン、見たくない。 いつだって、自信をもって行動してる。 自信を裏付ける、努力を惜しまないことも、私は知ってる。 そのアスランが、こんなに。 こんな時、私には何ができるだろう・・・? 不思議と、キラの心は落ち着きを取り戻し始めている。 波立っていたそれが、アスランを前にして、なぜか穏やかになってきたのだ。 自分自身の不安にばかり向いていた意識が、アスランを想う気持ちへと。 大好きな、キラの大切なアスランが、目の前で苦しんでいるのだ。 「・・・それじゃあ、休もう。 体を休めて、それから考えよう。 アスランが、いつも私に言ってたことよ。 疲れたままじゃ、頭もまわらないんだから」 「・・・そうだったな」 「そうよ。 あ、食事もしないといけないんだったわよね」 とはいえ、さっきの今で、食事の用意がすぐにできるとも思えない。 出来たとしても、おそらくは混み合うことが予想された。 心身とも疲労の濃いアスランを、キラはそんなところに連れて行く気になれない。 じゃあ・・・と。 キラはすっくと立ち上がった。 アスランの傍を離れ、部屋の中を動き回る。 タオルやシーツ等の替えを確認し、さらには勝手にクローゼットも探った。 着替えを取り出し、顔を上げたアスランの膝に置く。 シーツ類はベットの上に。 「キラ?」 ぽかんと自分を見ているアスランに、キラは笑いかけた。 いつもと立場が逆転している。 落ち込むのはキラで、世話を焼くのはアスランの役目だったのだから。 「さぁ、アスラン。 シャワーを浴びてきて。 体をすっきりさせて、ぐっすり眠りましょ」 彼女はアスランの手を引いた。 力ずくで立たせようにも、キラの力では敵うわけが無い。 だが、アスランは彼女に引かれるまま、シャワーブースへと足を進めた。 「さ、入って。 ・・・どうしたの?」 扉を開け、キラがアスランの手を離すと、逆にまた掴まれてしまう。 アスランが自分を見ていた。 「え・・・っと。 入るの、イヤ?」 キラは、心配そうに訊く。 その彼女は、次の瞬間、力強くアスランの腕に抱きこまれた。 背がしなるような体勢で、キラの目にはアスランの肩越しに天井だけが映る。 「アスラン・・・」 「頼む。 少しだけ、このまま」 「・・・うん」 両腕ごと彼の腕がまわっているため、キラから抱きつくこともできなかった。 アスランの片方の手が彼女の頭をも支えてくれているので、キラは体の力を抜く。 するとさらに、苦しいほど抱きしめられた。 *** next |
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