no title - 37


キラは女の子です


「あんただって艦橋にいたんだろっ。

 なら、これがどういうことだったか、わかってるはずだろ!?」

「シン」



咎める声を出したアスランとともに、キラは振り返る。

そごては憎しみを込めた赤い瞳が、こちらを睨みつけていた。

こちら、というよりカガリをだったが。

彼・・・シンはさらに言葉を重ねた。



「ユニウスセブンの落下は、自然現象じゃなかった。

 犯人がいるんだ!

 落としたのはコーディネイターさ!」



そんなこと、みんなわかってる。

ジンを、ナチュラルが使えるわけない。



キラは、唇を噛み締める。

これが新たな火種になるかもしれないと、そう彼女も思った。

彼に言われるまでも無い。

ジンを、ザフト軍のモビルスーツを操縦するなど、ナチュラルにはまず無理だ。

まして、正規軍である彼らと戦闘をしてみせている。

少なくとも、軍に所属していたことのあるパイロットと考えるのが自然だった。

誰もが敢えて口にしなかったその推測を、シンは眼前へと曝す。

カガリはそれを、驚愕の表情で受け止めていた。



「あそこで家族を殺されて。

 その事をまだ恨んでる連中が、ナチュラルなんか滅びろって落としたんだぞ!」



ユニウスセブンにいた人の、遺族って、そういうこと?



「アス・・・」



咄嗟に、キラはアスランを見上げる。

小さく名を呼べば、彼はキラを見て、悲しげな微笑みで答えた。

シンの言うことは事実だと。

恐らくは戦闘中に交信があって、彼ら2人はそれを知ったのだと。

・・・キラは理解した。

家族を、親しい者を失って、その加害者を恨むなと、どうして言えるだろう。

キラも、そしてこのアスランも。

互いの友人を殺し、自身も殺し合ったのだから。

そしてアスランは、キラよりもこの事実が堪えているだろう。



アスランのお母さんもユニウスセブンにいた。

あそこにレノアさんが、今も眠っていた。

それを地球のためにと、自ら作業に加わったのに。

こんな、こと。



キラは手をそっと、アスランの胸に当てた。

その手を、アスランの手が包み込む。

もう片方の手が彼女の腰に絡みついた。

引き寄せられ、キラの髪に、アスランが顔をうずめるのがわかる。

そんな2人の傍らで、カガリとシンの言い合いは続いていた。



「わ、わかってる、それは・・・っ。

 でも!

 お前達は、それを必死に止めようとしてくれたじゃないかっ」

「当たり前だ!」



一際強く怒鳴るシンに、アスランが顔を上げる。

キラにまわしていた腕を解き、低い声で、誰にともなく話し出した。



「だが、それでも破片は落ちた。

 ・・・俺達は、止めきれなかった」



辛そうなその声とともに、握られたままのキラの手が痛む。

だがキラは、その手よりも胸が痛かった。



「一部の者達がやったことだと言っても、俺達コーディネイターのしたことに変わりはない。

 許してくれるのかな、それでも」



踵を返すアスランに、手を引かれてキラも甲板を後にする。

その場に残されるカガリやシン達のことなど、キラの頭には無かった。

彼女の意識はアスラン一人に向けられている。

しかしそれでも。

背後でシンが放った言葉は、キラにもしっかりと届いた。



「自爆した奴らのリーダーが、最後に言ったんだ。

 俺達コーディネイターにとって、パトリック・ザラのとった道こそが唯一正しいものだった、ってさ!」



思わず振り返るが、既にシンの姿は見えない。

顔を戻して、キラはアスランの頑なな横顔を見た。



「ほんと、に?」

「・・・ああ」

「そう・・・」



言った途端、アスランの足が止まる。



「それだけ?」

「アスラン?」

「・・・父上の妄執が」



アスランが小さな声で、ぽつりと言った。

キラは彼の前にまわり込み、俯いたアスランの頬に片手を添える。



「あの人たちが何をどう考えたかなんて、わからない。

 だけど、なんでも1人で背負い込まないで。

 ・・・私じゃ、頼りにならないけど」



話していても目を逸らしているアスランに、キラはちょっと躊躇ってから、素早く背伸びをしてその頬に唇で触れた。



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