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キラは女の子です | ||
「ごめん、キラ」 アスランが触れようとすると、キラがその手を叩く。 俯いた彼女の視界に入らぬようにその髪を撫でれば、肩を揺らした。 キラが身を引く間を与えず、アスランは彼女を胸に抱き寄せる。 「出来ることをしたかった。 少しでも、あれを小さくしたかったんだ。 そのせいで、心配させちゃって、ごめん」 「・・・なんで、すぐに戻らなかったの? 私・・・」 「そうだ、アスラン! お前が戻ってこないから、キラが出るって騒いだんだぞ」 口を挟んだカガリをちらりと横目に見た。 すぐに目を腕の中のキラに移し、彼女を拘束している腕を緩める。 「って、キラ?」 「・・・だって。 か、帰って来なかったらどうしようって。 アスランが強いの、知ってる。 よく、知ってるけど。 でも、でも・・・っ」 「俺はここにいるよ。 いつも、キラの傍に。 だから、・・・泣かないで、キラ」 アスランはしゃくりあげ始めるキラを、もう一度力強く抱きしめた。 意識が互いに集中していた彼らを、一つの咳払いが掛けられる。 「あのさぁ、お取り込み中、悪いんだけど」 アスランとカガリはそちらを向き、しかしキラはアスランの胸から顔を上げなかった。 「まもなく、着水するからさ。 待機室かどこかに移動してくれ。 立っていたら危険だぞ」 じゃあ、ちゃんと言ったからな。 そう言い置いて、駆け出す整備士。 確認しなくても、さっきまでいた人々は既にその場にいなかった。 アスランとカガリは顔を見合わせ、無言のまま頷きあう。 「行くぞ」 一声掛け、アスランは自分に抱きついているキラを器用に抱き上げた。 驚いたように声を上げる彼女に構わず、格納庫の出口へと急ぎ足で向かう。 カガリももちろん、それについて来た。 パイロット待機室に入ると、そこには格納庫にいた人々が揃っている。 わざわざ空けておいてくれたらしい席に、キラを挟むように3人で座った。 *** 甲板に出た彼らの前に、暗い色をした空と海とが広がっている。 プラント育ちのクルー達は、初めて眼にするそれに驚嘆の目を向けていた。 潮風が、皆の髪を揺らしている。 「キラ、ほら、地球に戻ってきたぞ」 アスランがパイロットスーツから着替える間に、ようやくキラは泣き止んだ。 だがまだ憂い顔のキラの気を引き上げようと、カガリが言葉を掛ける。 「・・・そうね。 でも、暗い・・・」 キラはアスランの腕に両腕を絡め、その肩に頬を預けるようにして遠くを見ていた。 アスランは黙って、こちらもキラと同じように海を見つめている。 ・・・まぁ、すぐに笑えるわけないか。 静観しているらしいアスランに、カガリは一つため息をついた。 それをどう思ったのか、アスランがカガリに話しかける。 「すまなかった、勝手に」 「それは、もういいさ。 お前の腕は、私も知ってるし。 私はむしろ、お前が出てくれてよかったと思ってる」 そう言って、カガリの視線がキラを見た。 つまり、キラのことさえなければ、ということだろう。 それはわかったが、まさかそう言われるとは思わなかったアスランは、驚いたというように目を見開いた。 キラもびっくりして顔を上げる。 そんな彼らに背を向け、カガリは明るい口調で話し出した。 「ほんとにとんでもないことになったが。 ミネルバやイザーク達のお陰で、被害の規模は格段に小さくなった」 ・・・アスラン? 突然雰囲気の変わったアスランの様子に、キラは彼の顔を窺う。 アスランは、キラからも顔を背けていた。 「どうし」 「そのことは地球の人たちも」 キラがアスランにどうしたのかと聞こうとするその声に、カガリの声が被る。 さらに、別の少年の声が響いた。 「やめろよ、この馬鹿!」 *** next |
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