no title - 36


キラは女の子です


「ごめん、キラ」



アスランが触れようとすると、キラがその手を叩く。

俯いた彼女の視界に入らぬようにその髪を撫でれば、肩を揺らした。

キラが身を引く間を与えず、アスランは彼女を胸に抱き寄せる。



「出来ることをしたかった。

 少しでも、あれを小さくしたかったんだ。

 そのせいで、心配させちゃって、ごめん」

「・・・なんで、すぐに戻らなかったの?

 私・・・」

「そうだ、アスラン!

 お前が戻ってこないから、キラが出るって騒いだんだぞ」



口を挟んだカガリをちらりと横目に見た。

すぐに目を腕の中のキラに移し、彼女を拘束している腕を緩める。



「って、キラ?」

「・・・だって。

 か、帰って来なかったらどうしようって。

 アスランが強いの、知ってる。

 よく、知ってるけど。

 でも、でも・・・っ」

「俺はここにいるよ。

 いつも、キラの傍に。

 だから、・・・泣かないで、キラ」



アスランはしゃくりあげ始めるキラを、もう一度力強く抱きしめた。

意識が互いに集中していた彼らを、一つの咳払いが掛けられる。



「あのさぁ、お取り込み中、悪いんだけど」



アスランとカガリはそちらを向き、しかしキラはアスランの胸から顔を上げなかった。



「まもなく、着水するからさ。

 待機室かどこかに移動してくれ。

 立っていたら危険だぞ」



じゃあ、ちゃんと言ったからな。

そう言い置いて、駆け出す整備士。

確認しなくても、さっきまでいた人々は既にその場にいなかった。

アスランとカガリは顔を見合わせ、無言のまま頷きあう。



「行くぞ」



一声掛け、アスランは自分に抱きついているキラを器用に抱き上げた。

驚いたように声を上げる彼女に構わず、格納庫の出口へと急ぎ足で向かう。

カガリももちろん、それについて来た。

パイロット待機室に入ると、そこには格納庫にいた人々が揃っている。

わざわざ空けておいてくれたらしい席に、キラを挟むように3人で座った。



***



甲板に出た彼らの前に、暗い色をした空と海とが広がっている。

プラント育ちのクルー達は、初めて眼にするそれに驚嘆の目を向けていた。

潮風が、皆の髪を揺らしている。



「キラ、ほら、地球に戻ってきたぞ」



アスランがパイロットスーツから着替える間に、ようやくキラは泣き止んだ。

だがまだ憂い顔のキラの気を引き上げようと、カガリが言葉を掛ける。



「・・・そうね。

 でも、暗い・・・」



キラはアスランの腕に両腕を絡め、その肩に頬を預けるようにして遠くを見ていた。

アスランは黙って、こちらもキラと同じように海を見つめている。



・・・まぁ、すぐに笑えるわけないか。



静観しているらしいアスランに、カガリは一つため息をついた。

それをどう思ったのか、アスランがカガリに話しかける。



「すまなかった、勝手に」

「それは、もういいさ。

 お前の腕は、私も知ってるし。

 私はむしろ、お前が出てくれてよかったと思ってる」



そう言って、カガリの視線がキラを見た。

つまり、キラのことさえなければ、ということだろう。

それはわかったが、まさかそう言われるとは思わなかったアスランは、驚いたというように目を見開いた。

キラもびっくりして顔を上げる。

そんな彼らに背を向け、カガリは明るい口調で話し出した。



「ほんとにとんでもないことになったが。

 ミネルバやイザーク達のお陰で、被害の規模は格段に小さくなった」



・・・アスラン?



突然雰囲気の変わったアスランの様子に、キラは彼の顔を窺う。

アスランは、キラからも顔を背けていた。



「どうし」

「そのことは地球の人たちも」



キラがアスランにどうしたのかと聞こうとするその声に、カガリの声が被る。

さらに、別の少年の声が響いた。



「やめろよ、この馬鹿!」



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