no title - 35


キラは女の子です


「アスラン・・・っ。

 どうして、戻らないんだ、あいつはっ」



心配と不安で苛立たしそうに、しかしクルーの邪魔にならないように小さく呟いた言葉は、すぐ横のキラだけに届く。

ミネルバから飛び立った4機のモビルスーツのうち、2機は既に帰艦していた。

アスランと、そしてもう1人の機体が、戻らない。

艦橋では、既に艦長から主砲の起動が指示された。

もう、彼らを待つ時間は無い。



アスラン・・・。

無事で、・・・無事でいて。



大気との摩擦で、赤く燃え上がる巨大な人工物。

数年前まで、人が暮らしていたそれへ、ミネルバから主砲が放たれた。

奥歯を噛み締め、キラはそれを映すスクリーンをじっと見つめる。

キラにできることは、なにもないのだ。



大丈夫。

アスランは、きっと大丈夫。

こんな、・・・こんなこと、きっと、なんでもない。



必死に、自分に言い聞かせてる。

救いは、アスランの搭乗機も、大気圏を突破できる性能を持っていることだ。

問題はその後。

ザクウォーリアは、自力飛行が出来ないのだ。

だがなんにせよ、燃え尽きてしまっては、意味が無い。

もちろん、ミネルバとともに砕けるなど、以ての外だ。

とても通信できないこの状況では、アスランがどうしているかなど、知りようも無い。

アスランの強さを、信じるしかなかった。



***



その瞬間、キラの顔がクシャリと歪む。

両手を口元に当て、つめていた息を吐いた。



「ああ・・・」

「キラ、見ろっ。

 わかるか?

 ほら、アスランのモビルスーツだっ。

 無事だぞっ」

「・・・うんっ」



キラはカガリの言葉にコクンと頷き、そのまま俯く。



「・・・っ」

「よかったなっ」

 

スクリーンの映像で、インパルスと、それに抱えられたザクとが甲板に着地するのがわかった。

途端、カガリが椅子から立ち上がる。

キラの怪我をしていない手をさっと掴み、彼女を引っ張り起こした。



「ほら、行くぞっ」

「え?カガリ?」

「ほらっ」



促されるままキラも立ち上がると、カガリはそのまま艦橋を飛び出す。

通路に出たところで繋がれた手は解かれ、全速力で駆け出すカガリを、キラはつい見送ってしまった。

彼女が角を曲がり、その背が視界から消えて、やっとキラは我に返る。

指先で、目元を軽く拭い、カガリを追って駆け出した。



***



キラは、カガリから大分遅れて格納庫にたどり着く。

そこにいたのは、パイロットや整備士達。

だがキラの目に映ったのは、アスランに抱きつくカガリの姿だった。



「!」



離れたところで足を止めた彼女に、最初に気づいたのはやはりアスランである。

カガリや、周りに集まった人々に向けていた笑顔が、キラと目が合った瞬間、さっと曇った。

アスランは、首に回されていたカガリの腕を優しく解く。

正面にいる彼女をすっと避け、キラの前まで歩いてきた。



「キラ」

「・・・アスラン」

「ごめん。

 すっかり、心配させてたな」



彼の笑顔が消えた理由をつい邪推してしまったキラの体から、強張りが消える。

瞳を揺らし、震える唇を開いた。



「そう・・・よ。

 なんで、こんな無茶したのよ」

「そうだ。

 モビルスーツで出るなんて聞いてなかったぞ」

「・・・ああ、すまなかった」

「無事だったからいいがな」



謝罪するアスランに、カガリは仕方なさそうに苦笑する。



「良くない。

 ・・・ちっとも、良くない」



和やかな雰囲気になったアスランとカガリに、キラはゆるゆると首を振った。

伸ばされたアスランの手を振り払う。

キラの瞳から、透明な雫が溢れ出した。



*** next

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