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キラは女の子です | ||
「アスラン・・・っ。 どうして、戻らないんだ、あいつはっ」 心配と不安で苛立たしそうに、しかしクルーの邪魔にならないように小さく呟いた言葉は、すぐ横のキラだけに届く。 ミネルバから飛び立った4機のモビルスーツのうち、2機は既に帰艦していた。 アスランと、そしてもう1人の機体が、戻らない。 艦橋では、既に艦長から主砲の起動が指示された。 もう、彼らを待つ時間は無い。 アスラン・・・。 無事で、・・・無事でいて。 大気との摩擦で、赤く燃え上がる巨大な人工物。 数年前まで、人が暮らしていたそれへ、ミネルバから主砲が放たれた。 奥歯を噛み締め、キラはそれを映すスクリーンをじっと見つめる。 キラにできることは、なにもないのだ。 大丈夫。 アスランは、きっと大丈夫。 こんな、・・・こんなこと、きっと、なんでもない。 必死に、自分に言い聞かせてる。 救いは、アスランの搭乗機も、大気圏を突破できる性能を持っていることだ。 問題はその後。 ザクウォーリアは、自力飛行が出来ないのだ。 だがなんにせよ、燃え尽きてしまっては、意味が無い。 もちろん、ミネルバとともに砕けるなど、以ての外だ。 とても通信できないこの状況では、アスランがどうしているかなど、知りようも無い。 アスランの強さを、信じるしかなかった。 *** その瞬間、キラの顔がクシャリと歪む。 両手を口元に当て、つめていた息を吐いた。 「ああ・・・」 「キラ、見ろっ。 わかるか? ほら、アスランのモビルスーツだっ。 無事だぞっ」 「・・・うんっ」 キラはカガリの言葉にコクンと頷き、そのまま俯く。 「・・・っ」 「よかったなっ」 スクリーンの映像で、インパルスと、それに抱えられたザクとが甲板に着地するのがわかった。 途端、カガリが椅子から立ち上がる。 キラの怪我をしていない手をさっと掴み、彼女を引っ張り起こした。 「ほら、行くぞっ」 「え?カガリ?」 「ほらっ」 促されるままキラも立ち上がると、カガリはそのまま艦橋を飛び出す。 通路に出たところで繋がれた手は解かれ、全速力で駆け出すカガリを、キラはつい見送ってしまった。 彼女が角を曲がり、その背が視界から消えて、やっとキラは我に返る。 指先で、目元を軽く拭い、カガリを追って駆け出した。 *** キラは、カガリから大分遅れて格納庫にたどり着く。 そこにいたのは、パイロットや整備士達。 だがキラの目に映ったのは、アスランに抱きつくカガリの姿だった。 「!」 離れたところで足を止めた彼女に、最初に気づいたのはやはりアスランである。 カガリや、周りに集まった人々に向けていた笑顔が、キラと目が合った瞬間、さっと曇った。 アスランは、首に回されていたカガリの腕を優しく解く。 正面にいる彼女をすっと避け、キラの前まで歩いてきた。 「キラ」 「・・・アスラン」 「ごめん。 すっかり、心配させてたな」 彼の笑顔が消えた理由をつい邪推してしまったキラの体から、強張りが消える。 瞳を揺らし、震える唇を開いた。 「そう・・・よ。 なんで、こんな無茶したのよ」 「そうだ。 モビルスーツで出るなんて聞いてなかったぞ」 「・・・ああ、すまなかった」 「無事だったからいいがな」 謝罪するアスランに、カガリは仕方なさそうに苦笑する。 「良くない。 ・・・ちっとも、良くない」 和やかな雰囲気になったアスランとカガリに、キラはゆるゆると首を振った。 伸ばされたアスランの手を振り払う。 キラの瞳から、透明な雫が溢れ出した。 *** next |
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