no title - 34


キラは女の子です


「帰艦信号・・・?」



ボギー1からの発光弾に、ミネルバ艦橋内のそこここで安堵のため息が漏れる。

キラも例外ではなく、祈るように組んでいた両手を下ろし、肩の力を抜いた。



「よかった・・・」

「だが、敵はまだいる。

 そして、肝心の作業も終わっていない」



気を抜いたキラに、デュランダルの声が突き刺さる。

そう、確かにそのとおりだった。

先行の部隊が、ユニウスセブンを二分することには成功している。

しかし、その大きさでは地球への被害を減らすことには足りないのだ。

もっと、砕かねばならない。

そして、それを妨害するだろうジンの群れはまだまだいた。



「私・・・」

「キラ?」



唐突に立ち上がったキラを、カガリが訝しげに見上げる。

と、そのまま身を翻そうとしたキラの手首を、カガリは反射的に捕まえた。



「ちょっ、待て、キラ!

 どこへ行くつもりだ!?」

「放して、カガリ」

「だから、どうするつもりなんだ?」

「決まってるでしょう。

 アスランを手伝いに行くの」

「行かせるわけないだろっ」



言い合いながらも、カガリの手はキラから外れない。

キラが本気で振り払えば簡単だろうが、それではカガリに怪我をさせてしまうえおそれがあった。

それでもなお、キラは行かせてと、カガリの目をまっすぐに見る。

だがもちろん、カガリは首を振った。



「どれだけ、ブランクがあると思ってるんだ!?

 怪我だってしてるんだぞ。

 今のお前が、アスランと同等に戦えるのかっ」

「・・・っ」

「第一、戦闘ができるのか?」

「で、でき・・・っ」

「無理だろう?

 ずっと、避けてきたんだ。

 そう簡単に、戻れるはずがない」

「だけど」



引かないキラをしかし、カガリとは違う穏やかな女性の声が止める。



「あなたにまで、モビルスーツは貸せないわ。

 もちろん、出撃など以ての外」



キラは、艦長席を振り返った。

そこでは、タリアが厳しい表情でこちらを向いている。

無言で見つめあい、目を伏せたのはキラの方だった。

唇を噛み締める彼女に、タリアは諭す。



「どちらにしても、時間切れね。

 ジュール隊も引き上げ始めたから」



それは、ユニウスセブンの地球への落下が始まることを示していた。

アスランも、そう遠からずミネルバに戻ってくることだろう。

反論しないキラを確認し、タリアはずっと静観していたデュランダルへと向き直った。



「こんな状況下に申し訳ありませんが。

 議長方はボルテールへお移りいただけますか」



穏やかな中にも微かに緊張を感じる声を発する彼女を、デュランダルと、そしてキラとカガリも驚いたように見る。



「ミネルバは、これより大気圏に突入し、限界までの艦主砲による対象の破砕を行いたいと思います。

 何処まで出来るかわかりませんが。

 でも、出来るだけの力を持っているのに、やらずに見ているだけなど、後味悪いですわ」

「タリア、しかし」

「私はこれでも運の強い女です。

 お任せください」



危険を伴うそれに、デュランダルも快諾はしなかった。

けれど、真剣なまなざしを向けられ、彼はタリアの決意を覚る。

諦めたように小さく息を吐き、だが微笑みを浮かべた。



「・・・わかった。

 すまない、タリア。

 ありがとう」

「いいえ、議長もお急ぎください」



決まれば、行動は早い。

デュランダルは立ち上がると、カガリと、そしてキラを促した。

しかし、カガリは首を振る。



「私はここに残る。

 ミネルバがそこまでしてくれるというのなら、私も一緒に行く。

 アスランがまだ戻らないしな。

 私だけ、議長と行くことはできない」

「・・・カガリ、待って、でも」

「キラは、アスランを置いて行くける?」

「そ、れは・・・。

 でも、・・・でも、私とカガリじゃ」

「代表がそうお望みでしたら、お止めはしませんが」



口ごもるキラの言葉に、デュランダルの声が重なった。

そのまま身を翻して艦橋から出て行く彼の背を見送りながら、キラはカガリを見る。



「・・・アスラン、怒るよね」



カガリはここに残るべきではないと思いながら、キラは大きくため息を吐いた。



「知るか。

 あいつがいないから悪いんだ」



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