no title - 31


キラは女の子です


「ねぇ、アスラン!

 カガリも一緒だったのに、戦闘したの?」

「今回は、戦闘は無いから」

「当たり前でしょう!?」



アスランの座ったコックピットを覗き込み、キラが声を張り上げる。

冗談ではなかった。

自分のことは棚に上げ、キラは思う。



私みたいに避難するためにモビルスーツを利用したとしても。

アスランなら戦闘に巻き込まれるようなことは避けられるわよ。

それなのに、よりにもよって腕をもがれる?

そんなの、アスランがなにかを庇ってのことに決まってる!



アスラン自身が聞けば、過分な評価と言いそうな意見は、しかし現実を言い当ててもいた。



「キラ・・・」

「なによ!?」



怒った口調で話ながら、しかしキラの目は微かに潤んでいる。

自分の身を案じてくれている彼女を見上げ、アスランはふっと微笑んだ。



「な、なに!?」



コックピットの中で立ち上がり、ふわりと浮いたアスランは、キラと顔を突き合わせる。

片手で体を固定させ、もう片手で、咄嗟に下がろうとしたキラの頭を抱き寄せた。



「キラ」

「む、無理は、しないでね!」

「ああ」

「ちゃんと、地球降下前に、戻ってきてねっ」

「ああ」

「そ、それから・・・っ」

「キラ」



直視し辛いほど間近で見つめられ、キラは動揺している。

強い光を放つ翠の瞳に、彼女は口を噤んだ。

と、その翠の色が、瞼に閉ざされる。

キラを絡め取っていた光が消え、彼女の体から僅かに力が抜けた。

同時に、キラの唇に、暖かいものが触れる。



キ・・・ス・・・?



目を見開いたキラは、体を硬直させた。

しかし、クスッという笑いが聞こえ、はっと我に返る。



「ア、ア、アスラン・・・っ!?」



混乱したまま問うように名前を呼ぶキラに、アスランはもう一度唇を寄せた。

が、それはかざされたキラの手のひらに遮られる。



「キラ」



なぜか、その声でキラの手は力無く下ろされた。

彼女自身にもわからないそれを、アスランは了承ととる。

実際、唇が触れ合う前に、キラは目を閉じた。

彼女の全身から力が抜け、アスランはキラをコックピットの中へと引き込む。

深くなる口づけに、やがてキラの手が上がり、アスランにしがみついた。



***



アスランの胸に顔を伏せて抱きついているキラの髪を、アスランが指で梳く。



「好きだよ、キラ。

 君は、不安がらなくていい。

 俺を信じて待っていて」

「・・・信じてるけど、心配なの」



キラは体を起こし、しかしアスランの顔は見なかった。

そのまま素早く、コックピットから抜け出す。



「私も、アスランのこと、好きだわ」

 

アスランに背を向けたまま、キラは小さな声で言った。

真っ赤になった顔を見られたくなくて、彼女はモビルスーツから飛び降りる。

だから、キラは見ることができなかった。

アスランが、珍しくも赤面し、そして幸せそうに微笑んだことを。



***



「きゃ・・・っ」

「あ、おい!?」



格納庫から出るところで、キラは人とぶつかりそうになった。

互いに体を捻って衝突は避けたものの、勢いは止まらない。

バランスを崩した彼女を、誰かの手が助けた。



「あ、すみません・・・っ。

 ありがとうございます。

 えっと、ルナマリアさん」

「キラさん、でしたっけ?

 気を付けてくださいね。

 シン、あなたも気を付けなさいよ」

「な・・・っ、俺はっ」

「ごめんなさいっ。

 私が、ちゃんと前を見てなかったんです・・・」



ルナマリアに反論しようとしたシンは、キラにすまなそうに頭を下げられ、その言葉を呑み込む。

代わりに、浮かび上がった疑問を口にした。



「なんで、あんたがここにいるんだ?」

「アスラ・・・、アスの見送りです」



キラがアスランの機体を指さす。

そこでは、彼がパイロットスーツ姿で技師と話しをしていた。



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