no title - 29


キラは女の子です


「はぁ・・・」



部屋に入った途端、キラの口からため息が出る。

両方の手で、自分の頬を軽くマッサージするように動かした。



「上手く、笑えなかったな」



自然に見えるようにしたつもりだったが、おそらく強ばって見えたことだろう。

アスランの目には。



笑う気分じゃないんだから、仕方ないけど。

私まで、アスランの負担になったら、困る。



もう一度息を吐くと、キラは壁のスイッチに手を伸ばした。

明るくなった室内で、彼女は部屋に据え付けられた端末へと近づく。



「少し、調べてみよ・・・」



椅子を引き寄せて腰掛けると、キラはキーボードの上に手を滑らせた。



***



キラは夢中になりすぎていたらしい。

扉が開いて人が入ってきたのも、彼女は気付かなかった。



「何か、わかったか?」

「ううん、あんま・・・っ、アスラン!?」



話しかけられた声に答え始めて、キラもやっと我に返る。

上体を捻る彼女の真後ろから、アスランは腕をキーボードへと伸ばした。

指を素早く動かし、キラの開いていたものを次々と閉じていく。



「キラのことだから、やると思ったよ。

 これじゃ、俺の話なんかいらないだろ?」

「・・・別に、艦内の情報だけだもん」

「でも、いけないってわかってるんだろ?」



モニターへと向き直ったキラは、アスランに背を向けて小さくなっていた。

目の前から最後の文字が消えた直後、キーボードから離れた手が、キラに回される。

強く、抱きしめられた。



「アスラン?」



戸惑うキラの右肩に、アスランの頭が伏せられる。

キラはちょっと体を強ばらせたが、それ以上動かない彼に、力を抜いて、体をアスランに預けた。



「母上が、いるんだ・・・」

「うん」

「でも、砕くしかない・・・」

「そうね」

「母上は・・・」

「レノアさんは、気にしないわ。

 たぶん、ね」



反論するでなく、アスランはキラの静かな声を聞いている。



「それより、地球への被害を見過ごしたりしたら、怒るわ。

 そんなの、私が言うまでもないけど」



アスランの腕が緩み、キラの体が自由になった。

椅子を回して、アスランと向き合う。



「メテオブレーカーを持った艦が、ユニウスセブンに向かってる。

 この艦も、もう移動を開始したわ。

 作業は、モビルスーツ隊の仕事よね?」

「ああ」

「アスランも、行く?」



沈黙で答えるアスランが、それを望んでいることは明らかだった。



「艦長の口振りだと、この艦にはモビルスーツが余っているみたいね?」

「ザクは、何機もあった」

「そっか。

 そうよね、これだけの艦ですもんね。

 乗員が、足りなかっただけで。

 だけど」

「頼んでみる」



決然としたアスランに、既に迷いは見えない。

話ながら心を決めてしまったらしい相手に、キラは顔を曇らせた。



「出来ると、思う?

 あんな大きな物、こんな短時間で砕ききれるかな?」

「するさ。

 しなくちゃ、いけない。

 だからこそ、手は多い方がいいんだ」

「なら、私も使う?」

「キラ?」

「私だって、作業くらい出来る。

 2年間、ブランクはあるけど。

 アスランがやるなら、私も」

「それは駄目だ!」



キラの言葉を遮り、アスランが叱るように言う。

鋭い一喝に、キラの目が驚きに見開かれた。

次いで、むっとした表情でアスランを見上げる。



「なんで!?」

「俺が嫌だから」

「・・・・・・・・・わがまま」

「そうさ」

「それなら」



立ち上がったキラは、アスランの胸に指を突き付けた。



「さっさと済ませて、すぐに帰ってきてね。

 それと・・・」



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