no title - 28


キラは女の子です


「なんで、あんなこと言っちゃったんだろ・・・」



自分の部屋がある方へと進みながら、キラは呟く。



彼は、私より少し下くらいだから。

あの頃の私と同じくらい、ということよね・・・。

なんで、軍になんて入ったんだろう?

アスランは、戦争を終わらせたかったから。

私は、友達を守りたくて、状況に流されてしまった。

それが正しかったなんて、思わない。

でも、他に選べる道が、あの時の私には見えなかった。



紅を身に纏うシンが、コーディネイターの中でも優秀なのは間違いない。

まして、量産機ではない新型のガンダムが与えられているのだ。

その彼が、軍以外に道が無かったとは、キラには思えない。



だけど私は、オーブからプラントへと移住した人々がどうしたかなんて、知らない。

ずっと、知ろうとしなかった。

彼に何かを言う資格なんて、私には・・・。



***



「アスラン・・・」



キラは部屋の前で、カガリを連れたアスランと顔を合わせた。

カガリは、キラの声に反応せず、俯いている。

アスランはキラを目で止め、さらに指を口にあてた。

頷くキラへとアスランも頷き返し、カガリを彼女自身の部屋へと導く。

それを見送り、キラはフッと息を吐いた。

そして、部屋が並ぶのと反対側にある窓から、宇宙を眺める。

この艦は今、先の戦闘による補修を進めていた。

それがある程度済むまで、艦は動けない。



「キラ」



ぼうっとしていたキラは、アスランがすぐ横に並んだことに気付かなかった。



「アスラン」

「話は」

「ちょっと、聞いた。

 ユニウスセブンが地球に、って」

「・・・そうか」



アスランが、窓の外へと視線を移す。

横顔を見つめるキラの前で、彼のその顔が唐突に歪んだ。



「くそ・・・っ!」



アスランの握りしめられた拳が振り上げられ、壁へと叩きつけられる。

一瞬キラの目が見開かれ、次いで伏せられた。



「なぜだ・・・?

 どうしてこんなことになる?」

「・・・アスラン」



絞り出されるアスランの声に、キラは一歩彼に近づく。

壁に付けられた彼の拳を、彼女は伸ばした両手で包み込んだ。

アスランはその感触にハッとして、その手から力が抜ける。

キラに手を引き寄せられ、自然、2人は向かい合った。



「怪我、するよ」

「そんな、柔じゃないさ」

「うん、そうだろうけど」



キラはアスランの手を放すと、さらに一歩近づく。

そのまま伸び上がりながら両腕をアスランの首へと回し、力を込めた。

互いの顔が擦れ違い、相手の表情が見えなくなる。

キラにはアスランの目を見て、話せる自信が無かったのだ。



「キラ・・・?

 キラ、腕・・・っ」

「いいからっ」



唐突なキラに戸惑った後、アスランはキラの左腕の怪我を思い出す。

慌てて外そうとするアスランを、しかしキラは言葉で止めた。



「今、優先することは何?」

「キラ?」

「アスランは、カガリを助けるためにここにいるんでしょう?」

「・・・カガリを」

「だから。

 アスランが落ち込んでいる場合じゃない」

「・・・ああ」

「私じゃ、カガリを浮上させられないから。

 アスランじゃなきゃ、ダメなの」

「そんなことは、ないだろう?

 カガリは、俺のことよりキラのことを」

「でも、ダメ。

 私にだって、わかってる。

 カガリは、私に弱音は吐けない。

 だって今の私は、庇護されるだけの存在になってる。

 私の前で、泣いたりしない。

 私じゃ、ダメ」



キラは、こんなことは言いたくはない。

できることなら、アスランの辛さをこそ和らげたかった。

しかし、カガリをこのままにはしておけない。

第一、キラが言うまでもなく、アスランがカガリを放っておくはずもなかった。

キラは、アスランから腕を外す。



「後で、話を聞かせて。

 カガリを休ませたら、私の部屋に来てね」

「いや、キラも少し休め」

「眠れるわけないでしょ?」



ニコッと微笑み、じゃあ後でと言いながら、アスランを残して部屋へと入った。



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