no title - 27


キラは女の子です


「おい、シン!

 シン、待てよ!」



シンを追ってきたヴィーノが、呼びかけても止まらないシンの腕を掴む。

無理矢理引っ張られ、たたらを踏んだシンは、ヴィーノをキッと睨んだ。



「なんだよ?」

「あ、いや・・・。

 なぁ、少し落ち着けよ」

「俺は」

「珍しいよな、お前があんなに怒るの。

 オーブじゃなくて、アスハが嫌いなの、お前?

 それに家族が殺されたって、どういうことだよ?

 国を脱出するときに、ってのは聞いてたけどさ」



シンの言葉を遮り、微妙に視線を逸らしたヴィーノが早口に言う。

それを、シンは唇を噛んで聞いていた。

待っても返事をしないシンに、ヴィーノは小さくため息を吐く。



「まぁ、な・・・。

 誰だって、言いたくない話ってのはあるよな」

「・・・ごめん」

「いいさっ」



ヴィーノはずっと掴んでいた腕を放し、その手でシンの背を力一杯叩いた。

よろけるシンに、ヴィーノがニッと笑いかける。



「さっ、行こうぜ」

「ヴィーノが止めたんだろ・・・」

「はっはっはっ。

 気にするなって」

「・・・いいけど。

 でも、先に行ってくれ」

「シン?」

「少し、頭を冷やしていく」

「・・・そっか」



展望室に行くというシンに手を振り、ヴィーノはあんまり考え込むなよと言葉を投げて別れた。



***



キラは、シンとヴィーノの会話を通路の陰から聞いていた。

シンが1人になると、キラはゆっくりと近づく。

足音に気付いたシンが、振り返った。



「あんた・・・。

 あの男と一緒にいた?」

「・・・ええ、そうです。

 キラと言います。

 あなたは、ルナマリアさんと同じパイロットのシンさん、ですね?」

「・・・ああ。

 それで、なんの用だ?」

「軍に入ったのは、なぜ?」

「は?」

「オーブで、戦渦に巻き込まれたのでしょう?

 どうして、戦おうとするの?」

「聞いていたのかよっ」



目元を険しくするシンに、キラは目を伏せる。

それでも、問うことは止めなかった。



「平和に、なったのに。

 どうして、銃を手にとるの?」

「そんなこと、あんたに関係ないだろっ」

「オーブを憎んでいるの?

 プラント・・・、いいえ。

 ザフト軍のことは、憎くはないの?」

「家族を殺したのは、オーブだ!

 中立がどうのって言って、地球軍の宣戦布告を受けたんだ!

 ザフトは、関係ない!」

「そう・・・」

「だいたい、あんたは何なんだ!?」



喚くように言うシンに、キラは顔を上げる。



「アスハ代表の、秘書官。

 プライベートの、ね」

「オーブ、オーブ、オーブ・・・っ。

 何であんた達は、放って置いてくれないんだよっ」

「それは、私のセリフだわ。

 これ以上、アスの心に負担を掛けるような真似をしないで」

「な・・・っ!?」

「家族を戦争で失ったのは、確かに不幸でしょう。

 戦闘に関わった私達には、同情されたくないのでしょうし。

 だけど。

 だからって、他人を傷つけていい権利があなたにあるわけじゃない。

 言ったところで、あなたの心が晴れるわけでもないでしょう?」

「そんな、こと・・・」

「とにかく。

 オーブが嫌いだっていうのは、仕方ない。

 でもそれなら、カガリにもアスにも関わらないで」



一方的に話したキラは、踵を返し掛けて、止まった。

もう一度、シンの目を見て口を開く。



「力を持つなら、心を憎しみに染めないで。

 そんな力は、平和を壊す。

 幸せを奪い去ってしまう」

「あんたなんかに、何がわかる!?」

「・・・わかってからじゃ、遅い」



一瞬にして目を潤ませたキラが今度こそ立ち去るのを、シンは呆然と見送った。



*** next

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